2025年7月の予言はなぜ広がる? 社会不安と「私が見た未来」の心理学

不確実な時代において、予言はなぜ人々の間で急速に広まり、信じられるようになるのでしょうか。宗教学者の島田裕巳氏は、その背景には社会に広がる不安があると指摘しています。人間が持つ「信じやすさ」と、具体的な「証拠」が組み合わさることで、予言は大きな影響力を持つようになるのです。特に、日本でも現在大きな注目を集めているある予言は、この現象を典型的に示しています。

人は元来、他者から伝えられた情報を比較的容易に信じる傾向があります。例えば、健康法に関する情報などがそれに当たります。言われたことに対し、その根拠を深く検証しないまま受け入れることがあります。日本には古来より「言霊」という考え方があり、言葉そのものに力が宿るとされていますが、これも無関係ではないかもしれません。さらに、そこに何らかの「証拠」が提示されると、信憑性は一層高まります。

1973年のオイルショック時に起きたトイレットペーパー買い占め騒動。社会不安が人々の行動に影響を与えた歴史的な例。1973年のオイルショック時に起きたトイレットペーパー買い占め騒動。社会不安が人々の行動に影響を与えた歴史的な例。

このような背景の中で、漫画家のたつき諒氏による書籍『私が見た未来 完全版』(飛鳥新社)を通じて広まった予言は、その典型的な例と言えます。本書の帯には「本当の大災難は2025年7月に」起こると記されています。著者は夢の中で、2025年7月に日本列島の南、フィリピンとの中間地点あたりで海水が大きく盛り上がり、それが原因で太平洋周辺の国々に巨大な津波が押し寄せる光景を見たとしています。この津波は東日本大震災時のものの3倍規模にも達し、その衝撃で香港から台湾、そしてフィリピンまでが地続きになるというのです。著者は特定の月日(7月5日)を断定したわけではありませんが、夢の一つを2021年7月5日午前4時18分に見たことから、この大災害が「2025年7月5日」に起こると広く信じられるようになりました。

たつき諒氏のベストセラー書籍「私が見た未来 完全版」の書影。2025年7月の大災害予言が話題。たつき諒氏のベストセラー書籍「私が見た未来 完全版」の書影。2025年7月の大災害予言が話題。

しかし、このような内容を漫画に描いただけでは、ここまで大きな騒ぎにはならなかったでしょう。注目すべきは、著者が1999年7月に刊行したオリジナル版『私が見た未来』(朝日ソノラマ刊)の表紙に「大災害は2011年3月」と描かれていたことです。この記述が東日本大震災を予言していたと見なされたことで、2025年7月5日に大津波が起こるという予言も、多くの人にとって強い信憑性を持つことになりました。現在書店で販売されている『私が見た未来 完全版』は2021年に刊行されたものですが、電子書籍を含めて累計100万部を超えるベストセラーとなり、さらにその中国語版が香港のインフルエンサーによって紹介されたことで、この予言は国際的にも広まりました。その影響は、日本への観光客が激減したとまで言われるほどの現実的な騒ぎにつながっています。

ただし、『私が見た未来』を読んだ多くの読者が感じるであろう疑問点も存在します。それは、そもそも著者が東日本大震災を「予言した」と言えるのか、という点です。過去の出来事と予言とされる内容との関連性については、慎重な検討が必要です。

結論として、予言がこれほどまでに広がり、社会現象となる背景には、人間の信じやすい心理と、具体的な「証拠」として提示される情報(今回の場合は過去の版の表紙の記述)が結びついたこと、そして現代社会に内在する漠然とした不安感が複合的に影響していると言えます。特に、インターネットやSNSの普及は、このような情報の伝播を加速させる要因となっています。2025年7月の予言に関する騒動は、社会不安が人々の集合的な意識や行動にどのように影響を与えるかを示す興味深い事例と言えるでしょう。

[Source link] (https://news.yahoo.co.jp/articles/b08a03bbc1ed1ad1f746576a1ecd5651b446c2f0)