黒海で熱帯の猛毒フグ確認:生態系・漁業・健康への脅威

6月27日、黒海沿岸のウクライナ沖で熱帯性のフグが捕獲されたというニュースは、沿岸諸国に波紋を広げた。ブルガリアのオンラインメディア「オフ・ニュース」は、「黒海固有種ではない熱帯のフグの存在は、海洋生態系の変化や漁業環境へのリスクについて多くの疑問を提起するものだ」と報じている。

黒海への異常出現とその経路

ブルガリア・バルナにある水産資源研究所のフェリハ・ツェルコヴァ氏は、このフグが紅海から来たものである可能性が高いと指摘する。「オフ・ニュース」が引用したツェルコヴァ氏の言葉によると、フグは紅海からスエズ運河を抜け、地中海を縦断し、ボスポラス海峡を通って黒海に到達したと推測されている。これは、気候変動や人為的な要因による海洋生物の生息域拡大、特にレセップス移動(スエズ運河を通じた生物の移動)の顕著な事例と見られている。

地球温暖化と海洋生態系の変化を示す、黒海で捕獲された熱帯の猛毒フグ(センニンニンフグ)地球温暖化と海洋生態系の変化を示す、黒海で捕獲された熱帯の猛毒フグ(センニンニンフグ)

センニンフグの二重の危険性:捕食能力と猛毒

今回捕獲されたのはセンニンフグ(学名:Lagocephalus sceleratus)であると、ブルガリアのメディア「24カナル」は伝えている。この種は、人間にとって極めて危険な存在となりうる二重の脅威を持つ。一つは、その高い順応性と捕食能力だ。ツェルコヴァ氏は「彼らは順応性が高く、さまざまな塩分濃度や温度に耐えられます。あらゆる生きた獲物に興味を持つ捕食者です」と説明する。ロシアのニュースサイト「ガゼータ・ル」によれば、地中海ではその頑丈な顎で漁網を食いちぎったり、固有種を捕食したりすることが漁師の間でよく知られている「有名な存在」だという。

もう一つの、そして最も深刻な危険は、センニンフグが持つ神経毒「テトロドトキシン」である。「24カナル」によると、この毒はごく少量でも摂取すれば神経系に作用し、死に至る可能性がある。さらに恐ろしいのは、テトロドトキシンは熱に強く、一般的な調理法では分解されないことだ。このため、センニンフグを誤って食べると非常に高いリスクを伴う。ウクライナ沖でセンニンフグが初めて目撃されたのは2014年のことだったと、「24カナル」は付け加えている。

地球温暖化がもたらす生態系と漁業への影響

ウクライナの生態学者らは、地球温暖化が黒海の海水温を上昇させていることにより、センニンフグのような熱帯性の種の個体数が大幅に増加する可能性について警鐘を鳴らしている。「ガゼータ・ル」が引用する専門家の見解では、このような外来種の増加は、黒海の生物多様性を脅かし、在来種の減少を招く恐れがある。また、漁網への被害や漁獲対象となる魚種への影響を通じて、地域の漁業環境にも深刻なリスクをもたらす。そして何よりも、毒を持つフグの存在は、誤食による人体への健康被害という直接的な脅威となる。今回の黒海でのセンニンフグ捕獲は、気候変動が世界の海洋生態系や人間の活動に与える影響の広がりを示す、一つの具体的な事例と言えるだろう。

参照元

  • ブルガリアのオンラインメディア「オフ・ニュース」
  • ブルガリアのメディア「24カナル」
  • ロシアのニュースサイト「ガゼータ・ル」
  • 水産資源研究所 フェリハ・ツェルコヴァ氏