生活保護引き下げ裁判は、利用者とそれを支えた原告団の力があったことは間違いない。ただ、それだけでなく、真実を明らかにしようと動いた記者の存在があった。最高裁判決は、ジャーナリズムの勝利としての側面も見逃せない。
【写真】厚労省が「秘匿」を続けた生活保護費引き下げに関する資料
記者が明らかにしたのは何だったのか。それは、「透明で公正な手続き」とはほど遠い、基準改定の具体的内容を部外秘扱いとして秘匿し、専門家ではなく政治家への説明を優先した厚生労働省の対応だった。2年を超える地道な取材を通じて明らかにした真実が、判決に大きな影響を与えたのである。
部外秘扱いとされ秘匿された真実とは
前回の記事「「違法」と認定された生活保護費の減額、新聞各紙の報道を比較、国はどう動くか?想定される3つのシナリオ」では、最高裁判決を受けて、国の対応について3つの選択肢がありうることを説明した。
7月1日の福岡資麿厚労相の記者会見では、「厚生労働省としては、司法の最終的な判断を真摯に受け止め、判決の趣旨および内容を十分精査のうえ、今後の対応について検討してまいりたいと思います。具体的には、判決の趣旨および内容を踏まえた対応の在り方について、早期に、専門家によりご審議いただく場を設けるべく、検討を進めていきたい」とした(福岡大臣会見概要、2025年7月1日)。
会見を聞く限りで、国は、「(1)判決の影響を最小限に抑える」というシナリオを選択したようにみえる。この点については、引き続き注視していきたい。
今後、新たに設けられた審議会では、透明で公正な手続きで基準の検証が行われることが期待される。しかし、一歩立ち止まって考えてみたい。そもそも、「不透明で不公正な手続き」とはどのようなものだったのか。この点をきちんと整理した報道は、筆者が知る限りない。
結論から言おう。不透明で不公正な手続きとは、(1)「デフレ調整」と「ゆがみ調整の2分の1処理」を行うことについて、基準部会の意見を聴取せず、厚生労働省内部で判断をしていた。しかも、社会保障審議会にはその内容さえ知らされなかった(むしろ部外秘扱いとされ秘匿されていた)、(2)にもかかわらず、引き下げを主導した自民党議員には、密かに具体的な引き下げ額の説明が行われていたことを指す。
この事実の核心部分は、あるジャーナリストの2年に渡る地道な取材によって明らかになった。このスクープがなければ、異なる判決が下された可能性もある。