長野県松本市内の市立中学校において、2023年度に生徒の自殺未遂といじめによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)という、二つの重大な事態が発生していたことが明らかになりました。市の設置した第三者組織による調査報告書が公表され、学校側の不適切な対応が問題点として指摘されています。これは、日本国内外の教育現場における生徒支援といじめ対策のあり方について、改めて重要な問いを投げかけるものです。
松本市第三者委員会の調査報告
松本市は、これらの事案を受け、「市いじめ問題対策調査委員会」を設置し、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態として調査を進めていました。今回、その調査報告書が市の経済文教委員協議会で公表され、事案の詳細と学校側の対応の問題点が示されました。報告書は、生徒や保護者の声を踏まえ、再発防止に向けた提言を含んでいます。
中1女子生徒の自殺未遂事例
報告書で明らかにされた一つの事案は、当時中学1年生だった女子生徒の自殺未遂です。この生徒は持病や発達特性があり、入学前に小学校の校長らを交えた支援会議が開かれていました。しかし、この会議に出席していた当時の教頭は、決定された支援内容や生徒の特性に関する情報を校内全体に適切に共有しませんでした。
事情を知らされないまま担任となった教員は、2023年4月の入学直後から、生徒に対して配慮に欠ける言葉を繰り返し投げかけました。精神的に追い詰められた生徒は、同年6月にカッターナイフで手首を切る行為に至りました。報告書は、この情報共有の不備と担任教員の対応を、不適切であったと厳しく指摘しています。
長野県松本市内の市立中学校校舎の外観写真
いじめによるPTSD事例
もう一つの事案は、別の当時中学1年生だった女子生徒がいじめによりPTSDを発症したケースです。この生徒は、2022年4月の入学直後から、同じバスケットボール部に所属する女子生徒2人から継続的ないじめを受けていました。
いじめの内容は多岐にわたり、無料通信アプリ「LINE」を通じた誹謗中傷や脅迫とも受け取れるメッセージ送信、さらには顔を叩かれるなどの身体的な暴力も含まれていました。いじめにより、この生徒は学校への登校が困難な状況となり、2023年4月にPTSDと診断されました。報告書はいじめの詳細を認定し、その深刻さを強調しています。
市の対応と今後の動き
松本市は、これらの事案をいずれもいじめ防止対策推進法に定める重大事態と認定し、第三者委員会による調査を進めてきました。調査報告書に加え、保護者の所見も近く一般公開される予定です。
両事案の保護者は、「二度とこのようなことが起きないよう、調査結果を再発防止に生かしてほしい」と強く願っています。市教育委員会は、報告書の提言を真摯に受け止め、学校現場での情報共有体制の強化、教職員研修の徹底、いじめの早期発見と対応システムの改善など、具体的な再発防止策を講じる責任があります。今回の報告書は、松本市のみならず、全国の学校がいじめや不適切な対応の問題にどう向き合うべきかを考える上で、重要な教訓となるでしょう。