日本の医療政策、特に医師不足問題に関する議論は、歴史的、国際的な視点が欠如していると言わざるを得ません。厚生労働省が推進する医師偏在対策も、その根本的な原因である医師不足への対策がおざなりにされている現状を浮き彫りにしています。本記事では、医師不足の現状と、真に必要な対策について深く掘り下げていきます。
世界的に見て深刻な日本の医師不足
alt医師不足問題に関する会議の様子。現状把握と抜本的な対策が急務となっている。
OECD加盟国における人口10万人あたりの医学部卒業生数を比較すると、日本の深刻さが明らかになります。日本は7.2人で、イスラエルに次いで下から2番目。トップのラトビアの4分の1という少なさです。近隣諸国である韓国も7.3人と少ないものの、政府主導で医学部定員の大幅増員を決定しています。一方、アメリカでは医師不足が社会問題化しており、米国医科大学協会(AAMC)の報告書は2033年までに最大13万9000人の医師不足を予測しています。
高齢化が世界最速で進む日本で、医師養成数が世界最低レベルというのは、明らかに矛盾しています。これまで医師の過剰労働で医療体制を維持してきましたが、働き方改革によりそれも限界を迎えています。
世界的な医師不足の現状を踏まえ、各国ではオンライン診療の導入や、看護師の権限強化など、様々な対策が取られています。日本も、これらの先進的な取り組みを参考に、抜本的な改革が必要です。
「医師偏在」は問題の本質を隠蔽している?
alt医師不足は、医療現場の疲弊を招き、結果として医療サービスの質の低下につながる可能性がある。
厚生労働省は長年「医師は余る」と主張し、医師偏在対策に注力してきました。しかし、医師の絶対数が不足している状況で偏在対策を行っても、根本的な解決にはなりません。都市部への医師集中は、地方の医療体制の脆弱化を招き、結果として国民全体の医療へのアクセスを困難にする可能性があります。
人口減少が進む中で、地方都市の衰退は避けられない側面もあります。地方の医師不足は、この社会構造の変化も考慮に入れて議論する必要があります。医療経済学の専門家である佐藤教授(仮名)は、「地方の医師不足は、単に医師の配置転換で解決できる問題ではない。地域社会の活性化、医療インフラの整備など、包括的なアプローチが必要だ」と指摘しています。
未来を見据えた医療政策を
医師不足は、国民の健康と生命に直結する重要な問題です。歴史的、国際的な視野に立ち、現状を正確に把握した上で、未来を見据えた医療政策の構築が急務です。医師の養成数増加、医療体制の改革、地域社会の活性化など、多角的な視点からの議論が必要です。