トランプ氏の新たな関税示唆も市場は冷静、その背景とは?

トランプ米大統領が再び貿易戦争の再開を示唆しているにもかかわらず、ウォール街はさほど懸念を示していない。7月7日に関税措置が強化されたにも関わらず、8日の世界市場は比較的落ち着いた動きを見せた。特に、東京、ソウル、香港、ムンバイを含むアジア全域の株式市場では上昇が見られた。米国株は反応がまちまちで、ダウ工業株平均は0.37%下落したが、S&P500指数は0.07%の下落にとどまり、ハイテク株中心のナスダック総合指数は0.03%の上昇となった。この比較的穏やかな市場の動きの背景には、トランプ氏が関税の発効期限を8月1日まで延長し、交渉に応じる姿勢を示したことがある。これにより、多くの投資家が楽観的な見方をしたためだ。なぜ投資家たちは冷静なのだろうか。

市場が冷静を保つ背景

今回の新たな関税示唆に対する市場の反応は、今年4月初旬の状況とは明らかに異なっている。当時、トランプ氏が「解放の日」として発表した大規模な関税措置は、株価の急落を引き起こした。しかし、今回は投資家がトランプ氏の新たな関税について、強硬な政策そのものというよりも、むしろ交渉を有利に進めるための戦術として捉えていることが、比較的穏やかな市場の動きからうかがえる。

トランプ米大統領、貿易政策に関する演説の様子。市場は新たな関税示唆に対し冷静な反応を見せている。トランプ米大統領、貿易政策に関する演説の様子。市場は新たな関税示唆に対し冷静な反応を見せている。

トランプ氏が大規模な「相互」関税を発表し、その後90日間の猶予措置を導入してから3カ月が経過し、ウォール街はこうした関税に関する言説の意図を見抜くようになったと言える。IGオーストラリアの市場アナリスト、トニー・シカモア氏は、今回の関税を巡る一連の報道は、「解放の日」の市場を揺るがしたような「激震」ではなく、むしろ「余震」のようなものだと指摘し、市場は既に覚悟していたとの見方を示した。

トランプ氏の矛盾する発言と投資家の解釈

トランプ大統領自身も、関税措置の期限について、やや矛盾する発言をしている。8日には自身のSNSで、8月1日の期限以降の「延長は認められない」と述べた一方で、7日遅くにはホワイトハウスで記者団に対し、「8月1日の期限は確定しているが、100%確定ではない」と述べていた。さらに、関税に関する通知は「事実上」最終提案だとしながらも、「もし相手側が別の提案を提示し、私がそれを気に入れば、それに応じる」と述べ、交渉の余地を示唆した。UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの債券部門責任者、カート・レイマン氏は、「7日の書簡や関税に関する投稿は、脅威としては同じだが、ゴールポストが違うと捉えている」と述べ、状況の変化を示唆した。

市場でささやかれる「TACOトレード」

投資家の間では、ここ数週間、「TACOトレード」と呼ばれる戦略が採用されているという。これは、トランプ氏が大規模な関税をちらつかせても、特に市場に強い反発が見られる場合には、「常に尻込み(Trump Always Chickens Out)」すると見込んで取引を行うものだ。前出のシカモア氏は、「今回は、トランプ大統領流『TACOチューズデー』の再来となる可能性がある」と述べ、今回も同様の展開になることを示唆した。

まとめ

今回のトランプ大統領による新たな関税示唆は、過去の同様の発表と異なり、市場に大きな混乱をもたらしていない。これは、投資家がこれらの動きを、実際の貿易戦争の本格的な開始というよりも、交渉における駆け引きや戦術の一環として捉えているためだ。特に、市場の反応を見ながらトランプ氏が戦略を調整するという過去のパターン(「TACOトレード」)が意識されており、今回も同様の展開になるとの見方が市場の冷静さを支えていると言えるだろう。今後のトランプ氏の具体的な行動と、それに対する市場や各国の反応が注目される。

参照元

  • CNN