ソニー「着るエアコン」REON POCKET PRO、日本の猛暑対策に新風か

近年、世界的な気候変動の影響により、日本でも夏の猛暑は年々厳しさを増し、熱中症対策が社会的な課題となっています。こうした中、ゲームやカメラのイメージが強いソニーグループから、この過酷な夏を乗り切るための一つのテクノロジーとして注目されているのが、持ち運び型のウェアラブルクーラー「REON POCKET」シリーズです。特にこの5月に発売された最新モデル「REON POCKET PRO」は、冷却機能の向上と広い冷却面積で、その効果への期待が高まっています。2019年の事業化以来、着実にファンを増やしてきた本シリーズは、今年のPROモデルの初動販売数量が昨年の3倍に達するなど、その需要の拡大を示しています。これは単なるガジェットの枠を超え、日本の社会が直面する猛暑という課題に対する一つの技術的アプローチとして、その可能性を示唆しています。

REON POCKET PROの仕組みと進化

REON POCKETは、一般的なエアコンのように冷たい風を出すのではなく、本体そのものが直接冷えるというユニークな特徴を持っています。充電式のこのデバイスは、首の後ろに装着することで、その接触面から冷たさ(または暖かさ)を体に伝える仕組みです。この技術の核となっているのは「ペルチェ素子」と呼ばれる電子冷却部品です。ペルチェ素子は、電流を流すと片面が冷たくなり、もう片面が熱くなる性質を持っており、電流の向きを切り替えることで冷却と加熱の両方が可能です。REON POCKETでは、夏場は背中に触れる面が冷え、外側の熱は排熱ファンによって排出されます。最新モデルであるREON POCKET PROは、2024年モデルと比較して冷却面積が拡大され、冷却性能がさらに向上しています。

首に装着されたソニーのウェアラブルクーラー「REON POCKET PRO」の利用イメージ。首に装着されたソニーのウェアラブルクーラー「REON POCKET PRO」の利用イメージ。

カメラ設計技術から生まれた冷却イノベーション

REON POCKETの開発・販売を担うソニーサーモテクノロジーは、2023年に設立されたソニーグループ内の比較的新しい企業です。このウェアラブルクーラーが生まれた背景には、意外な技術の転用がありました。ソニーサーモテクノロジーの伊藤健二社長は、かつてソニーでカメラの設計に携わっており、特にカメラ内部の「排熱」に関する研究を行っていたといいます。上海での猛暑の中で、この排熱技術をサーモデバイスとして応用できないかと思いついたことが、REON POCKET開発の直接的なきっかけとなりました。業務の傍らでの実験を経て、2019年にクラウドファンディングで成功を収め事業化。その後の好調な売れ行きが、2023年の法人化へと繋がりました。ゲームやカメラといったソニーの主力製品とは異分野に見えるサーモデバイスですが、伊藤社長は、REON POCKETの配線や構造には既存技術が活用されており、「ソニーらしい」設計だと述べています。

社会課題への技術的アプローチとしての可能性

REON POCKETは、パーソナルな冷却デバイスとして、個人の暑さ対策に貢献するだけでなく、猛暑が引き起こす様々な社会的な課題に対処する一つの手段となり得ます。屋外での活動や通勤、そしてエアコンの使用が難しい環境下での熱中症リスク低減に寄与する可能性を秘めています。また、カメラ開発で培った排熱技術という、一見無関係な分野の知見が新しい製品として結実した事例は、ソニーグループ内の多様な技術と知見の活用という点でも注目されます。法人化を果たし、本格的に事業を拡大するソニーサーモテクノロジーとREON POCKETシリーズが、今後の日本の猛暑対策にどのような革新をもたらすのか、その動向が注目されます。

結論

ソニーのウェアラブルクーラー「REON POCKET PRO」は、ペルチェ素子を用いた直接冷却技術により、日本の厳しい夏における新たな個人向け冷却ソリューションとして急速に普及が進んでいます。カメラ開発で培われた排熱技術から着想を得て生まれたこのデバイスは、単なる便利なガジェットに留まらず、熱中症という社会的な課題に対する技術的なアプローチとして、その存在感を高めています。今後の製品開発と普及は、私たちの夏の過ごし方に変化をもたらすかもしれません。


参考文献: