現代社会では、花粉、ペットのフケ、ピーナッツなど、多様なアレルギー疾患が人々の生活を悩ませています。先進国だけでなく発展途上国においても、アレルギーの発症率は増加の一途をたどり、その解決策は喫緊の課題となっています。しかし、このような状況下で、ある特定のコミュニティが驚くべき例外を示しています。伝統的な生活様式を維持するキリスト教の一派、アーミッシュの人々です。彼らの暮らしには、現代人が抱えるアレルギー問題へのヒントが隠されているかもしれません。
現代社会のアレルギー急増とアーミッシュの驚異的な低率
アレルギー疾患は、過去1世紀でその発症率が劇的に増加しました。特に1960年代には小児喘息が、1990年代以降は牛乳、ピーナッツ、卵といった食物アレルギーが先進国で急増し、社会問題となっています。一般的なアレルゲンに対する皮膚検査(プリックテスト)において、米国の一般人口の54%が何らかのアレルギー反応を示すのに対し、アーミッシュの子供たちの陽性反応率はわずか7%に過ぎません。この数字は、極めて低い水準です。
シカゴ大学人類遺伝学部のキャロル・オーバー教授は、「全米の子供の8~10%が喘息を患っていますが、アーミッシュの子供の場合、おそらく1~2%でしょう」と指摘します。アレルギー疾患を持つアーミッシュの子供も存在しますが、その割合は一般人口と比較してはるかに低いのが実情です。インディアナ州北部のあるアーミッシュのコミュニティは、先進国で調査された中で最もアレルギーが少ないコミュニティの一つとして注目されています。アーミッシュ以外の伝統的な農業コミュニティの子供たちも、非農家の子供たちに比べてアレルギー疾患の発症率は低いものの、アーミッシュの子供たちよりは多いとされています。
アレルギー増加の背景とアーミッシュの伝統的ライフスタイル
アレルギー疾患の劇的な増加の要因としては、都市化の進展、大気汚染、食生活の変化、そして屋内での生活習慣の定着などが挙げられることが多いです。これらの現代的な要素が、私たちの免疫システムに影響を与えている可能性が指摘されています。
一方、アーミッシュの人々は、多くが酪農場で自給自足の生活を営んでいます。彼らの農作業や運搬には馬が利用され、電気や自動車といった現代のテクノロジーの使用を制限する昔ながらの生活様式を貫いています。2024年現在、米国には約39万5000人のアーミッシュがおり、主にペンシルベニア州、オハイオ州、インディアナ州といった地域に集中して暮らしています。このような伝統的な生活環境が、彼らの免疫システムとアレルギー耐性において重要な役割を果たしていると考えられています。
アーミッシュの農夫が伝統的な農作業を行う様子。アレルギー予防の研究対象となる彼らの生活風景。
農場の「ほこり」が持つ免疫保護の秘密:研究の最前線
現在、オーバー教授をはじめとする研究者たちは、アーミッシュやその他の伝統的な農業コミュニティの持つ独自性を深く掘り下げ、幼児を対象としたアレルギー治療法の開発を目指しています。彼らが特に注目しているのは、農場のほこりに含まれる微生物、そこから生み出される有用な物質であるプロバイオティクス、そしてそれらを含むエッセンシャルオイルです。これらの要素が、子供たちの免疫システムを適切に刺激し、アレルギー疾患の発症を予防する可能性が示唆されています。
アリゾナ大学の細胞分子医学教授であるドナタ・ヴェルチェッリは、「ある種の農法、特に非常に伝統的な農法がおこなわれているコミュニティでは、喘息やアレルギーがほとんど存在しません。この意味で、そうした農法には驚くべき保護効果があります」と述べています。アーミッシュの生活環境、特に農場の「ほこり」が、アレルギーに強い免疫システムを育む上で鍵となる要素であるという見方が強まっています。
結論
アーミッシュの人々が示すアレルギー疾患の極めて低い発症率は、現代社会におけるアレルギー問題への新たなアプローチを提示しています。彼らの伝統的な農村生活と、それに伴う環境が免疫システムに与える影響に関する研究は、花粉症、喘息、食物アレルギーなど、多くの人々を苦しめるアレルギー疾患の予防や治療に繋がる画期的な発見をもたらす可能性を秘めています。アーミッシュの暮らしに隠された秘密を解き明かすことは、持続可能な健康と豊かな未来を築くための重要な一歩となるでしょう。
参考資料
- Meeri Kim. (Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/a366b2c12693c9e1ee3634853976d539fbdff657)