職場に怒りっぽくて嫌な人はいませんか? 産業医・心療内科医の吉田英司さんによると、急に怒りっぽくなることは、認知症の初期症状やメンタルヘルス不調が原因の場合もあるそう。周囲の人や自身のメンタル不調の兆候をいち早くつかむための知識を、吉田さんの著書『一生健康に働くための心とカラダの守り方』より一部抜粋・再構成のうえお届けします。
【前回の記事】「認知症」を防ぎ、高齢になっても働き続けるために… 明確に“予防できる”認知症の種類とは?
■人は余裕がなくなると他人に優しくできない
「事例性」とは、ある症状が職場での就業において影響が出ていることを指します。例えば、不眠症状が続くと遅刻や欠勤が増えるといった形で現れる状況です。
「事例性」の一つに「以前穏やかだった人が急に怒りっぽくなる」状況があります。
急に怒りっぽくなることは、認知症の初期症状の一つとして知られています。加齢による変化の影響で、ある程度の年齢を重ねるとそうなりやすい傾向があるのも事実です。
しかし、認知症とは別の要因として、メンタルヘルス不調が原因で怒りっぽくなるケースもあります。その背景には、ワーキングメモリの低下が関係しています。
ワーキングメモリとは、情報を短期間保持しつつ、同時にそれを操作・処理するための脳の機能です。ワーキングメモリは、学習や問題解決、意思決定、注意や感情のコントロールなど、日常生活のさまざまな場面で重要な役割を果たしています。
特に、感情制御はワーキングメモリの重要な働きの一つです。不快な感情やストレスに対処するために必要なプロセスですが、強いストレスを受けると、体内でストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されます。
短期間のコルチゾール分泌は、身体を危機に備えさせるために有益ですが、長期間にわたって高いコルチゾールレベルが続くと、脳のワーキングメモリを含む認知機能に悪影響を及ぼします。
その結果、集中力や判断力が低下し、感情のコントロールが難しくなり、ちょっとしたことでイライラしたり、怒りっぽくなったりすることにつながります。