モンゴルでの全日程を終えた13日、天皇、皇后両陛下が帰国する。陛下と皇后雅子さまの外国への公式訪問は、昨年の英国に続き即位後は3回目。終戦から80年の節目を前に、首都ウランバートルの日本人抑留犠牲者の慰霊碑に黙とうを捧げた。2007年、皇太子だった陛下をモンゴル大使として現地で迎えた市橋康吉さんは、そろってモンゴルの地を踏んだおふたりが、滞在中に見せた穏やかなほほ笑みと表情を感慨深く見つめ、思い出とともに振り返った。
【写真】草原の国で見せた「最高のほほ笑み」が美しい! 雅子さまと天皇陛下はこちら!
* * *
小型のデジタルカメラを手に撮影する天皇陛下は、皇后さまとともに双眼鏡をのぞくと互いに顔を見合わせてほほ笑んだ。
滞在中、おふたりは国民的なスポーツ祭典「ナーダム」の競技を観戦した。草原で100頭以上のモンゴル馬が大草原を20キロにわたり駆ける競馬の騎手を務めるのは子どもたちだ。
ゴールに近い席から、おふたりは満面の笑顔で騎手の子どもたちに手を振る。
おふたりが互いにほほ笑みながら見つめ合う。陛下にとって18年ぶりとなるモンゴル訪問は、そんな場面が印象に残るものだった。
「ター・ブフンテェ・ダヒン・オールズスンダー・タータェ・バェン(皆さまとの再会をうれしく思います)」
大統領夫妻主催の晩餐会で、陛下は18年ぶりに再会したモンゴルの人びとにこう、喜びを伝えた。
「再会を嬉しく」という言葉の通り、陛下のモンゴル訪問は、2007年に続いて2度目だ。
この時、モンゴル大使として現地で同行した市橋康吉さんは、こう振り返る。
「18年前は、モンゴルの伝統的な楽器である馬頭琴の楽団が、陛下(当時、皇太子)を誘った。陛下も、せっかくですから、と楽団のビオラを借りて飛び入りで、サン・サーンスの白鳥を競演された」
しかし、今回、陛下は愛用のビオラとともにステージに上がり、日本で愛唱され続ける叙情歌「浜辺の歌」などを馬頭琴とあわせて演奏した。陛下は、この本番前にもビオラの練習を重ねていたという。
18年前と違うのは、そうした陛下の姿をご存じの雅子さまがモンゴルに同行し、温かなまなざしで陛下の演奏を見守っていたことだ。
07年、おひとりでモンゴルを訪問した陛下は笑顔と気遣いを絶やなかった。
カラコルムの草原でモンゴル馬に乗って散策を楽しみ、
「胸のすくような大自然ですね」「スカッとします」
そう、晴れ晴れとした笑顔を見せた。
日本の乗馬で一般的なサラブレットとモンゴル馬では、乗る感覚も鞍などの種類も違う。整備された馬場と違い、草原は石も凹凸もある。それでも、モンゴル馬や草原に囲まれていきいきとした陛下を見て、自然が本当にお好きなのだな、と感じたという。
また、カラコルムで遊牧民の文化を体験した際に、陛下が愛子さまについて口にして、話題を集めた。案内役だった元横綱・朝青龍の両親に、こう話したのだ。
「愛子は、相撲好きで朝青龍のファンで、ダグワドルジと本名で呼んでいます」
一方で、市橋さんが知る限り、雅子さまの話題を口にすることはなかった。
「陛下については、07年以前からお会いする機会もあり、誠実なお人柄と存じ上げております。陛下は、常に凜とした佇まいを崩さなかった。それでも、表情や言葉のはしばしから、雅子さまとそろってお出でになりたかったのだろう、というお気持ちは伝わりました」
18年ぶりとなった今回のご滞在では、おふたりそろってモンゴルの地に立ち、思い出を新たにされた。それが何より感慨深い、と市橋さんは口にする。
ところで、陛下がお好きなものと言えば、「お酒」だ。国内の訪問でも、日本酒などを好んで召し上がるエピソードは、よく耳にする。