三田紀房氏の受験マンガ『ドラゴン桜2』の中で、東大合格請負人・桜木建二は日本の教育制度の歴史に触れ、明治時代の富国強兵の名残が今も根付いているとし、「伝統と書いてゴミと読む」と手厳しく批判しました。この言葉が示すように、現代日本の学校教育の現場では、「校則」という名の「伝統」が見直され、変化が起こり始めています。特に令和に入ってから、この動きは顕著になっています。
文部科学省が2025年7月2日に公表した、全国の公立中学校・高等学校799校を対象とした校則等の見直し状況調査結果は、この変化を裏付けています。調査によれば、「校則を設定している」と回答した790校のうち、実に約91%(720校)が令和時代に入ってから校則の制定または変更を実施しています。
漫画『ドラゴン桜2』の一場面。日本の教育の「伝統」について問題提起する描写が含まれる。
令和における学校「校則」の具体的な変化
具体的に見直しや制定が行われた内容として最も多かったのは、「服装(制服や体操服、靴等)」で約90%の学校が挙げました。次いで「頭髪や化粧」が約63%、「持ち物(スマートフォンや携帯電話、鞄、金銭など)」が約36%となっています。これらの項目は、いわゆる「ブラック校則」として社会的な注目を集めることが多かった点であり、時代の変化や生徒の権利意識の高まりを受けて、多くの学校が対応を進めている状況がうかがえます。
校則「見直しプロセス」が生徒にもたらす学び
校則改正の議論ではその内容ばかりに目が向きがちですが、どのようなプロセスを経て改正されたのかという過程も極めて重要です。生徒自身が校則の制定・改正に関わる機会を持つことは、単にルールを守ることに留まらず、ルールがどのように作られるのか、そしてルール作りにはどのような責任が伴うのかを学ぶ貴重な機会となります。これは、民主主義社会における市民育成の観点からも重要な要素と言えるでしょう。
生徒・保護者の意見反映の現状と課題
今回の文部科学省の調査では、校則制定・改正を実施した720校のうち、生徒や保護者から意見を聴取する機会を設けた学校は611校に上りました。その内訳を見ると、「全ての生徒から意見を聴取」したのが約63%、「一部の生徒(生徒会等)から意見を聴取」したのが約36%となっています。生徒会を通じて全校生徒の意見を聴取した場合の分類については詳細な説明が待たれますが、全体として意見聴取の機会が広く持たれていることは評価できる点です。
しかし、かつて生徒会活動に関わっていた経験を持つ者からは、「これまで生徒会が学校内から校則改正の必要性を訴えても無視されてきたのに、文科省や教育委員会といった『外部』からの声がかかった途端、まるで学校側が主体となって発案したかのように、学校側の決めたプロセスで改正が進められた」といった声も聞かれます。教育組織の構造を考慮すれば理解できないことではありませんが、教職員が「生徒自身がルール作りに参画することの意義」を心から理解し、内発的な動機付けをもって推進しなければ、一過性のブームに終わってしまう懸念も拭えません。
公立校以外の「ブラックボックス」と現場の疲弊
もう一つ、今回の調査が公立学校のみを対象としている点も指摘すべきです。私立学校は、いわば校則に関する「ブラックボックス」であり、公的な統一ルールが存在しません。幸いにも筆者が通っていた学校は生徒の自主性を重んじ、明文化された校則はほとんどありませんでしたが、全ての私立学校がそうであるとは限りません。
中には、「校則はありません」と説明しながらも、入学後に厳しいルールを強制するといった私立学校も存在すると言われています。私学の「自治」を最大限尊重することは前提としつつも、生徒の学びや基本的な権利を著しく制約するような校則が存在しないかをチェックし、問題がある場合に適切な是正を促すことができるような仕組みが求められています。
加えて、現場の先生方の負担増大も無視できない問題です。ただでさえ教員不足が叫ばれる中、デジタル化への対応、保護者との連携強化など、業務は増える一方です。校則見直しも例外ではなく、「先生方の負担を考えると、強く校則改正を要望しにくい」と悩む他校の生徒会の友人もいました。
これらの複合的な課題に対する明確で単一の解決策は存在しませんが、校則の改正・制定というトピックにおいては、その内容だけでなく、それがどのような「プロセス」を経て実現されるのかに、私たちはもっと目を向ける必要があるでしょう。
参照元
- 文部科学省による公立中学校・高等学校の校則等見直し状況調査結果
- 三田紀房氏の漫画『ドラゴン桜2』