多くの国民が強い関心を寄せているにもかかわらず、夏の参議院選挙において主要な争点として十分に議論されていないテーマがある。それは、日本の外交安全保障政策、特に台湾を巡る有事への対応である。
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日本の安全保障政策について論じる古賀茂明氏]
共産党、れいわ新選組、社民党といった一部の政党は、自公政権とは一線を画す公約を掲げているように見える。しかし、残念ながらこれらの政党は国会での議席数が限られており、日本の外交安保政策全体への影響力は極めて限定的だと言わざるを得ない。では、国会で最も大きな影響力を持つ野党第一党である立憲民主党と、政権与党である自民党の間では、この極めて重要な外交安保政策において、一体どのような違いがあるのだろうか。
自民党の防衛政策の現状
自民党は安倍晋三政権以降、石破茂政権に至るまで一貫して、現実的に戦争を遂行可能な状態にするための政策を推進してきた。具体的には、集団的自衛権の行使容認、敵基地攻撃能力の保有検討、防衛費の大幅な増額(GDP比2%目標などが取り沙汰される)、そして米軍と自衛隊の一体化推進などが挙げられる。これらの政策は、日本の防衛体制を強化し、抑止力を高めるという名目のもと、事実上の「戦争の準備」とも解釈できる内容が、極めてオープンに積み重ねられてきている。
立憲民主党の防衛政策:自民との差異はどこに?
では、野党第一党である立憲民主党の公約や政策提言を見ると、自民党の推進する防衛政策と比べて、どの程度の違いが見られるのだろうか。驚くべきことに、その公約を詳細に検討すると、実は自民党の政策と本質的な部分で大きな違いが見当たらないというのが現実だ。もし立憲民主党を中心とする政権が誕生したとしても、日本の外交安全保障政策が現在の自民党政権下から大きく方向転換するとは考えにくい状況が見て取れる。
外交政策の継続性という議論への反論
この点について、「外交政策はある程度の継続性が必要であり、政権交代によって政策が大きく変動することは、外国からの信頼を損ない、日本の国益を害する」という意見があることは理解できる。しかし、目を米国に向けてみてほしい。彼らは環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱やパリ協定からの離脱など、過去の国際的な約束を比較的容易に破棄してきた。今日では、昨日述べたことと今日述べることが正反対であっても、国際社会で誰も驚かないような状況になっている。そのような国と外交関係を維持していく上で、日本だけが外交政策を一切変更してはならないという主張は、むしろ現実離れしており、馬鹿げているとさえ言えるのではないだろうか。
政党が明確に答えるべき3つの問い
このような背景を踏まえた上で、今、私たちが日本の各政党に対して最も知りたいのは、彼らが米国との関係を今後どのように構築していきたいと考えているのかという点だ。ただし、これまでの「米国一辺倒」とも揶揄される姿勢から、より米国からの自立を目指す方向へシフトしたい、と建前上は全ての野党が言うだろう。そこで、もう少し踏み込み、喫緊の課題として目の前にある具体的な問題について、各政党に明確な回答を求めてみたい。
第一に、日本の防衛費を最大でどこまで増額するつもりなのか。その具体的な上限額や、増額の根拠、使途について明らかにする必要がある。
第二に、台湾有事が実際に発生した場合、日本は米軍と連携して中国と軍事的に共に戦うことも辞さないのか、それとも別の対応を想定しているのか。その際の自衛隊の役割や活動範囲について明確なスタンスを示すべきだ。
第三に、緊迫化する状況下で、日本と中国の関係を今後どのように維持・発展させていくのか。対立を深めるのか、対話の道を模索するのか、具体的なビジョンが求められる。
3つの問いの関連性と自民党の想定される回答
これら3つの問いは、日本の今後の日米関係を大きく左右する可能性を秘めており、かつ相互に深く関連している。例えば、もし台湾有事の際に米国と共に戦うことを辞さないという立場をとるならば、それに備えるための防衛費はかなり巨額になることが避けられないだろう。その場合、日中関係においては軍事衝突の可能性を排除しないという前提に立つことになり、結果として中国との経済関係や人的交流をこれ以上深化させることは極めて困難になる。
自民党については、これまでの政策の積み重ねから、これらの問いに対する回答は容易に想定できる。すなわち、米国との同盟関係を一層強化する方針を堅持し、防衛費は少なくとも米国が要求するGDP比3.5%、あるいはそれをも超える水準を目指すと考えられる。また、台湾有事の際には、米国と共に中国との軍事衝突も辞さないという覚悟を持っていることが推測される。そして、そうした有事の可能性を念頭に置けば、中国との経済的な結びつきが強いことはリスクとなるため、必然的に経済関係の拡大は抑制せざるを得ないという結論に至るだろう。日中関係全体も、この厳しい安全保障環境を前提としたものにならざるを得ない。
結論:有権者は政党の明確な回答を求めている
このように、台湾有事とそれに関連する日本の防衛政策、日米関係、日中関係といったテーマは、国民の生活や国の未来に直結するにもかかわらず、参議院選挙において十分に掘り下げられた議論がなされていない現状がある。特に、主要政党である立憲民主党が、この点において自民党とどのような明確な違いを持ち、どのような具体的な政策を提唱しているのかが見えにくいことは、有権者にとって重要な判断材料の欠如を意味する。各政党は、国民が抱える安全保障への不安に対し、耳触りの良い抽象的な言葉だけでなく、上記のような具体的な問いに対して真摯に向き合い、明確な回答を示す責任がある。有権者は、自らの投票が日本の将来の外交安全保障政策を左右することを認識し、政党の姿勢を厳しく見極める必要がある。
参照元: https://news.yahoo.co.jp/articles/ed467bf5614eb4168caab943b4fb266b544aacfd