米国のドナルド・トランプ前大統領は通常、自身のスキャンダルを巧みに制御してきましたが、勾留中に死亡した富豪ジェフリー・エプスタイン氏を巡る疑惑については、その影響力を完全に抑え込むことができていないのが現状です。これはトランプ氏にとって異例の展開であり、特に自身の最も熱心な支持者であるMAGA(Make America Great Again)運動の一部、特に陰謀論に傾倒する勢力との間で対立が生じています。
エプスタイン疑惑を巡る議論の中心にいるドナルド・トランプ前大統領
異例の事態:陰謀論の「犠牲者」となったトランプ氏
通常、トランプ氏は陰謀論の発信源となることが多いですが、エプスタイン氏の件においては、自身が制御不能な陰謀論の「犠牲者」として扱われています。彼はまるで事態を隠蔽しようとする「内部の人間」のように見なされており、「ディープステート(影の政府)」の破壊者としての姿はそこにありません。ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員など、一部の著名なMAGA派は公然と声を上げており、この問題が運動内で大きな「反響」を呼んでいると指摘。トランプ氏の支持者の中には、司法省の発表を「隠蔽」と捉える向きもあると警告し、「多くの人々にとって、まさに一線を越えるものだった」と強調しています。
過去の虚偽の陰謀論と現状の対比
政府が安心感を与える声明を出したり、陰謀論を打ち消したりできない現状は、米国政治史上最も悪名高い虚偽の陰謀論を拡散してきたトランプ氏にとっては皮肉な状況です。具体的には、バラク・オバマ元大統領の出生地に関する差別的な妄想や、2020年の大統領選で自身が実際に勝利していたという民主主義を蝕む言説などが挙げられます。これらの陰謀論は、2024年の大統領選で彼が再び権力の座に返り咲く上で一役買いました。しかし、トランプ氏が得意とするこれらの「陰謀論の技能」も、性的人身売買の罪で起訴され公判前に拘置所で死亡したエプスタイン元被告を巡る疑惑を抑え込む助けにはなっていません。
司法省発表が火に油を注ぐ
先週、司法省はエプスタイン氏が「顧客リスト」を所持していた証拠はなく、拘置所での死因も自殺だったとするメモを発表しました。しかし、この発表はむしろ陰謀論に拍車をかける結果となりました。トランプ氏自身がボンディ司法長官(当時)にそう告げたとしても、証拠がないとする発表は疑惑を深めるだけです。ホワイトハウスが国内外で積み重ねているとされる成果にも、この長引く論争が影を落としており、トランプ氏はこれに不満を募らせていると報じられています。
結論
ジェフリー・エプスタイン氏の死を巡る陰謀論は、トランプ前大統領にとって、これまでのスキャンダル対応とは異なる新たな試練となっています。自身の支持層からの批判に直面し、得意とする陰謀論拡散の手法が今回は裏目に出ている状況は、彼の政治的影響力の限界を示唆するものです。この問題は、ホワイトハウスが優先したい政策課題に影を落とし続け、今後の政治情勢に影響を与える可能性を秘めています。
参考文献
- CNN
- Yahoo!ニュース
- 米国司法省 (Department of Justice)