トランプ氏の対イスラエル「絶対的支持」の謎:関税優遇政策と中東戦略の背景

2025年に再び大統領の座に就くことが想定されるドナルド・トランプ氏は、その政治姿勢を「アメリカ・ファースト」の徹底に置いています。しかし、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、トランプ氏には「アメリカ・ファースト」と同様に一貫した、イスラエルへの強い支持があると指摘します。日本人読者からすると、このトランプ氏のイスラエル支持にはいささか不可解な点も見えるかもしれません。本稿では、佐藤氏の著書『トランプの世界戦略』からの知見も交え、この背景にある要因を深く掘り下げて解説します。

再び大統領に就任後の「アメリカ・ファースト」と貿易政策

トランプ氏は、2017年から2021年にかけての第1期政権時と同様に、2025年に再び大統領に就任した後も、「アメリカ・ファースト」を徹底した政治姿勢の根幹に据えるでしょう。特に、アメリカ国内の工業製品生産量の著しい減少や、ラストベルト地域に象徴される白人労働者階級の雇用問題と直結する貿易赤字に対しては、大幅な関税引き上げという強硬な貿易政策を継続すると見られています。これにより、世界各国の政府から強い反発が予想されますが、トランプ氏は国内経済の再生を最優先する姿勢を崩さないでしょう。

ドナルド・トランプ元大統領の肖像。彼は「アメリカ・ファースト」を掲げながらも、イスラエルへの強い支持を政策の核としており、その背景には関税政策や中東情勢への独特な視点があることを示唆するイメージ。ドナルド・トランプ元大統領の肖像。彼は「アメリカ・ファースト」を掲げながらも、イスラエルへの強い支持を政策の核としており、その背景には関税政策や中東情勢への独特な視点があることを示唆するイメージ。

イスラエルとロシア、関税対象外の「特別な国」

トランプ氏の通商政策の具体的な現れとして、2025年4月3日時点での主要国・地域に対するアメリカの関税率を見ると、日本24%、中国34%、台湾32%、韓国25%、インド26%、EU20%、イギリス10%、スイス31%といった高水準の数値が示されています。このような状況下で、日本国内ではあまり注目されていない事実として、トランプ氏がロシアとイスラエルに対してのみ、新たな関税を引き上げていない点が挙げられます。

ロシアに関しては、ウクライナ侵攻以降の経済制裁の一環として、すでに別途関税が引き上げられているという特殊な事情があります。しかし、イスラエルに対する関税優遇措置は、そのような明確な説明が成り立ちません。イスラエルのネタニヤフ首相は対米貿易赤字の解消に努めると発言してはいるものの、他の貿易相手国との取り扱いを比較すれば、トランプ氏がイスラエルを「特別な国」として扱っていることは明白です。この例外的な扱いは、単なる経済的理由を超えた、より深い政治的背景を示唆しています。

トランプ氏の信念:イスラエル防衛は「大災難」を避けるため

トランプ氏がイスラエルを特別視する背景には、彼自身の強い信念が存在します。2015年に大統領選への出馬を表明した際、トランプ氏は次のように発言し、イスラエルへの揺るぎない支持を明確にしました。

「彼(オバマ)がイランと結ぼうとしている協定を見てごらんよ。あんな協定を結んだら、イスラエルはもう存在しなくなってしまう。大災難だね。僕たちはイスラエルを守らなきゃならないっていうのに」

この発言は、当時のオバマ政権が推進していたイラン核合意への強い批判であると同時に、イスラエルの安全保障をアメリカの最重要国益の一つと見なすトランプ氏の基本的な外交姿勢を示しています。彼にとって、イスラエルの存続は中東地域の安定、ひいてはアメリカ自身の安全保障に不可欠な要素であり、「大災難」を避けるためには断固として守るべき対象であるという認識が根底にあるのです。この信念こそが、彼の「アメリカ・ファースト」政策と並ぶ、対イスラエル強硬支持の謎を解き明かす鍵となります。

結論

ドナルド・トランプ氏の「アメリカ・ファースト」という旗印の下での強硬な貿易政策は、世界の政治経済に大きな影響を与えています。しかし、その政策の一方で、イスラエルに対して一貫して「特別な国」として関税面での優遇を与え続ける姿勢は、単なる経済合理性や外交的駆け引きを超えた、彼自身の強い信念に裏打ちされていることが明らかになりました。

トランプ氏にとってイスラエルは、中東地域におけるアメリカの重要なパートナーであり、その存立は「大災難」を避けるために不可欠な要素です。この揺るぎない信念が、彼の外交政策、特に中東政策の基盤を形成しており、将来的に彼が再び大統領に就任した場合、このイスラエルへの「絶対的支持」が、国際政治の舞台でどのような影響を与えるか、引き続き注目していく必要があります。

参考文献

  • 佐藤優著『トランプの世界戦略』
  • 西森マリー著・訳『完全対訳 トランプ・ヒラリー・クルーズ・サンダース演説集 何が勝負を決したのか?』星海社新書、2016年