20日投開票の参議院選挙を前に、新興の右派政党である参政党が支持を拡大し、政治情勢に新たな波紋を広げています。外国人の受け入れや男女共同参画に批判的な立場を取り、「日本人ファースト」を掲げる同党は、今回の選挙で125議席中10〜15議席を獲得する勢いをメディアの世論調査で示しています。その急速な台頭は、日本もまた他の西側民主主義国と同様に、政治や社会の分断と無縁ではない可能性を示唆しています。
「外国人問題」に新たな論点を提起
参政党の神谷宗幣代表(47)はロイターのインタビューに対し、「外国人の問題に触れると、差別だとバッシングがくる」と語りました。しかし同時に、参政党が批判を受けながらも支持を伸ばしていることで、自民党や公明党といった既存政党も支持確保のために、この問題に言及せざるを得なくなったと述べています。神谷氏は、参政党が選挙戦を通じて「新たな論点を生み出した」と振り返り、その影響力の高まりを強調しました。
支持拡大の背景と社会の分断
政治アナリストらは、神谷代表のメッセージが、経済や通貨の低迷に不満を抱く有権者の心をつかんでいると指摘します。記録的な数の外国人観光客が日本を訪れ、物価上昇に拍車をかけている現状も、その背景にあると考えられます。急速に高齢化が進む日本社会において、在留外国人は昨年約380万人と過去最多を更新しましたが、これは総人口のわずか3%に過ぎず、欧米諸国と比較しても極めて低い水準です。
神谷氏は食品スーパーの店長、英語と世界史の高校講師、大阪府吹田市の市議会議員などを経て、2020年に参政党を立ち上げました。同氏はしばしばトランプ米大統領の政策に言及しますが、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」や英国の「改革党」など、しばしば比較される欧州の右派ポピュリスト政党と同じ道を歩めるかは未知数です。日本の右翼政治を研究する神田外語大学のジェフリー・ホール講師は、インターネット空間での支持基盤、若い男性への強い訴求力、そして自国の固有文化が移民によって侵食されるという訴えなど、共通する要素が揃っていると指摘します。ホール氏は、「これまで公然と語ることがタブーとされていた反外国人感情が、今や表面化している」と分析しています。
右派の新興政党「参政党」の神谷宗幣代表が日本記者クラブで会見する様子。同党は外国人受け入れや男女共同参画に批判的な立場を取り、「日本人ファースト」を掲げ、参院選に向けて支持を拡大している。
政府の対応と参院選の構図
外国人に対する政策が参院選の主要な争点として浮上する中、政府は7月15日、内閣官房に「外国人との秩序ある共生社会推進室」を設置しました。発足式で石破首相は、外国人労働者を受け入れる必要性に言及しつつも、「一部の外国人による犯罪や迷惑行為、各種制度の不適切な利用など、国民のみなさんが不安や不公平を感じる状況も生じている」と述べ、国民の懸念に配慮する姿勢を見せました。
メディアの世論調査によると、今回の参院選では自民党と公明党の連立与党が過半数を失う可能性が高まっています。政治アナリストらは、これにより衆議院でも少数与党となる石破政権が、政策を推進するために他党との連立拡大や取引が必要になる可能性があると指摘しています。
参政党の戦略と支持層の特性
2022年の参院選で参政党初の国会議員として当選した神谷氏は、かつて「天皇に側室を」と発言して物議を醸したこともありますが、近年は主張を和らげようとしています。例えば、党の選挙公約には減税や児童手当の拡充などが含まれており、これは他の野党も掲げる政策で、日本の財政健全性に対する金融市場の懸念を招く要因ともなっています。
日本の安定した政治の中で、これまで小規模な右派政党は足場を築くのに苦労してきました。しかし、参政党はインターネット空間で支持を集めることに成功しており、特にYouTubeのチャンネル登録者数は40万人以上と、自民党の3倍に当たり、どの政党よりも多い状況です。ただ、米国や欧州の右派政党と同様に、参政党の支持層は20〜30代の男性に大きく偏っています。神谷代表は、東京選挙区で歌手のさや氏など女性候補を擁立することで、この弱点を克服しようと試みています。
選挙戦の序盤、神谷代表は男女共同参画について、女性の就労を促進し出産を妨げるとして「間違いだった」と発言し、批判を浴びました。同氏は、なぜ参政党が男性により訴求するのかという問いに対し、「暑苦しい男だからですかね」と自嘲気味に語っています。
連立政権への展望
参院選終了後の連立政権について、神谷代表は現時点では自民党や公明党との連立を全く考えていないと明言しました。「将来的に参政党が40なり50議席をとったときに連立を組んで与党に入ることも目指したいが、今は、まだ小さな党」と述べ、まずは「きちっと足場を固め、責任の持てる状態を作ってから、連立に入っていく」との抱負を語っています。
参政党の躍進は、日本の政治が新たな局面を迎えつつあることを示唆しています。外国人問題や社会の分断といった課題が、今後の日本の政治と社会の方向性を決定する上で、ますます重要な要素となるでしょう。
参考文献:
- Tim Kelly, Takaya Yamaguchi, John Geddie, ロイター「外国人受け入れ批判、右派新党が支持拡大 参院選で躍進の勢い」(2025年7月17日)