タイで僧侶恐喝スキャンダル:性的動画で多額の金銭を要求した女を逮捕、仏教界の改革に波紋

タイの警察は15日、複数の僧侶と性的関係を持ち、その行為を撮影した写真や動画を利用して多額の金を脅し取ったとして、一人の女性を逮捕したと発表しました。この事件は、国民から深い尊敬を集めるタイ仏教界に再び波紋を広げており、近年頻発する僧侶による性犯罪や麻薬取引といった不祥事への批判が改めて高まっています。当局は、仏教の信頼回復に向けた具体的な改革の動きを見せています。

容疑者の手口と被害規模の詳細

警察が「ゴルフ氏」と呼ぶ容疑者は、少なくとも9人の僧侶と性的関係を持った上で、過去3年間にわたり総額約3億8500万バーツ(約17億6000万円)もの金銭を脅し取っていたとみられています。容疑者の自宅を捜索した結果、彼女の携帯電話からは、恐喝の証拠として使用されたとみられる僧侶たちの写真や動画が8万点以上も発見されました。

タイ警察に逮捕された、僧侶を性的動画で恐喝した疑いの女性「ゴルフ氏」タイ警察に逮捕された、僧侶を性的動画で恐喝した疑いの女性「ゴルフ氏」

今回の捜査が始まったのは、先月中旬にバンコクの住職が女性に恐喝され、突然僧籍を離れた事件を警察が知ったのがきっかけでした。その後の調べで、容疑者は昨年5月にこの住職と「関係を持った」後、住職の子を産んだと主張し、700万バーツ以上の養育費を要求した疑いが浮上しました。さらに、同様の手口を用いて、他の僧侶らにも次々と金銭を送らせていたことが判明しています。これらの脅し取られた金銭は、ほぼ全てが引き出され、一部はインターネット賭博に利用されていたことも明らかになりました。

容疑者には、恐喝、マネーロンダリング(資金洗浄)、盗品受け取りといった複数の容疑がかけられています。警察は引き続き徹底した捜査を進めるとともに、「行いの悪い僧侶」に関する情報提供を受け付けるホットラインも開設し、市民からの協力を呼びかけています。

仏教界と政府の対応:改革への動き

今回の大規模なスキャンダルを受け、タイの仏教を統括する最高組織である「大長老会議」(サンガ)は、僧侶に関する規律を見直すための特別委員会を設置することを発表しました。これは、仏教界が長年抱えてきた内部の問題に本格的に向き合う姿勢を示したものです。

また、タイ政府もこの問題に深く関与しており、行動規範に違反した僧侶に対して、罰金や禁錮刑を含むより厳しい罰則を科すよう働きかけています。国民の信頼回復のため、法的な強制力をもって僧侶の行動を律する方針です。

さらに、タイのワチラロンコン国王は今週、6月に出された僧侶81人に対する高い称号授与の命令を取り消しました。国王は、最近の僧侶による不祥事が「仏教徒の心を大いに苦しめた」と述べ、この決定が仏教界の現状に対する国王の強い懸念と是正を求める意思を示すものとなりました。

タイ仏教の背景と過去の不祥事

タイでは国民の9割以上が仏教徒であり、僧侶は社会から絶大な尊敬を集める存在です。多くのタイ人男性は、生前善行を積む「カルマ(業)」を積むため、一時的に出家し僧侶となる習慣があります。しかし、近年は仏教関係者による不祥事が相次ぎ、世間を騒がせています。

例えば、2017年には、ジェット機で各地を飛び回り、贅沢なライフスタイルで知られた僧侶のウィラポン・スクポン被告が、性犯罪、詐欺、マネーロンダリングの容疑で起訴され、国際的な注目を集めました。また、2022年にはタイ北部ペッチャブーン県の寺院で、麻薬捜査により僧侶4人全員が逮捕され、僧籍を剥奪されるという衝撃的な事件も発生。結果として、その寺には僧侶が一人もいなくなる事態に陥りました。

これらの事件は、タイのサンガ内部における規律や説明責任の欠如に対する批判を何年も前から引き起こしています。しかし、多くの専門家は、何世紀も続くその強固な組織構造において、真の変革がほとんど見られないと指摘してきました。特に、厳格な階級制度が大きな問題とされています。宗教学者のスラポット・タウィーサック氏は、BBCタイ語の取材に対し、「タイの官僚制度に似た権威主義的なシステムがあり、高位の僧侶は高級官僚のようなもので、下位の僧侶はその部下となっている」と説明しました。さらに、「下位の僧侶は不適切なことを見かけても、簡単に寺から追い出されてしまうため、声を上げようとしない」と、内部告発が困難な状況を強調しています。

組織的問題と改革への期待

このような構造的な問題があるにもかかわらず、今回の警察と大長老会議が協力して進めている調査は、多くの人々が長年望んできた仏教界の改革を推し進める重要な一歩となる可能性があります。

バンコクのタマサート大学の社会学者プラキラティ・サタスット氏は、「重要なのは、国民がサンガの潔白に対する疑念を和らげられるよう、真実を明らかにすることだ」と語りました。そして、この一連の動きが、大長老会議が「組織を救うために手足を切断するのか」、つまり組織の腐敗部分を断ち切る覚悟があるかにかかっていると結んでいます。今回の事件が、タイ仏教界の真の浄化と改革につながるかどうかに注目が集まっています。

参考文献