中国の国営航空機メーカーである中国商用飛機(COMAC)は、世界の民間航空機市場におけるボーイングとエアバスの長年にわたる二強体制を打破するという壮大な野心を抱いています。同社の主要航空機「C919」は、ボーイング「737」やエアバス「A320」シリーズに直接対抗する機種として位置づけられ、業界内外から大きな注目を集めています。関税や認証といった障壁に直面しつつも、航空業界の多くの識者は、COMACが今後の市場において無視できない存在になると見ています。
長年続いたボーイングとエアバスの「二強体制」
数十年にわたり、世界の民間旅客機製造市場は、米国ボーイング社と欧州エアバス社の2社によってほぼ独占されてきました。国際線のフライトを利用する際、搭乗する機体がこれら2社のいずれかである可能性は極めて高く、この事実が世界の航空業界の現状を物語っています。しかし、中国から台頭した新興メーカーCOMACは、この確立された体制に変化をもたらそうとしています。エアバスのギヨーム・フォーリCEOは、航空業界が「二強体制から三強体制」に移行する可能性に言及するなど、COMACの潜在力は既に広く認識されています。
COMACの台頭:中国市場とサプライチェーン問題が追い風に
中国商用飛機(COMAC)は2008年設立と比較的新しい企業であり、これまでに開発上の課題や国際的な論争に直面してきました。しかし、中国における航空機旅行の急速な需要増加と、全世界的に航空業界を悩ませるサプライチェーン問題という状況は、COMACにとって完璧なタイミングでの台頭を意味します。この有利な状況が、同社の成長と市場参入を後押ししています。
COMAC初の商用機「ARJ21(C909)」の役割
COMACが初めて開発し、商業飛行に成功した航空機は、設立から8年後の2016年に初飛行した「ARJ21」です。後に同社のブランド統一のため「C909」と改名されたこの機体は、COMACの拡大する野心を示す最初の証となりました。航空業界の情報サイト「Ch-aviation」によると、C909は現在までに145機が航空会社に納入されており、その大半は中国国内の航空会社ですが、東南アジアの数社も含まれています。主任設計者のチェン・ヨン氏によると、166機が運用中とのことです。C909は座席数78~90席の小型ジェット機で、地域間の飛行を想定したリージョナルジェットであり、ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルが製造する機体と競合する位置づけにあります。
本命「C919」:ボーイング737・エアバスA320への直接的挑戦
COMACにとって、より戦略的に重要な意味を持つ航空機が「C919」です。この機体は、エアバスの「A320」シリーズやボーイングの「737」の直接的な競合機種として開発されました。
COMAC C919型機。世界の航空機市場の二強体制に挑む中国の新型民間航空機。
C919は、C909と同様に通路が1つしかないナローボディ機ですが、より長い航続距離を持ち、156人から168人の旅客を乗せることができます。このタイプのジェット機は、航空会社からの需要が非常に高く、エアバスやボーイングにとっては収益の柱となってきました。Ch-aviationのデータでは、商業飛行を開始したC919はわずか19機に過ぎませんが、この数字は今後大きく伸びると予想されています。COMACの賀東風会長は2023年に、C919が1061機の受注を受けていると発言しました。
ヨーロッパ最大の格安航空会社であるアイルランドのライアンエアーも、C919の購入を検討していると報じられています。ライアンエアーのマイケル・オリアリーCEOは2025年3月、「スキフト」に対し、「あの中国企業は、簡単に言えばコピー版のA320を作っている。だから、十分に安ければ、例えばエアバス機と比べて10~20%安いとなれば、我が社は注文するだろう」と述べており、価格競争力が市場参入の鍵となる可能性を示唆しています。
乗り越えるべき課題:型式証明と論争
しかし、COMACが世界市場で本格的に競争力を得るためには、まだいくつかの課題を克服する必要があります。欧州連合(EU)の民間航空機認証機関である欧州航空安全機関(EASA)のフロリアン・ギレルメ事務局長は5月、フランスの「リュジーヌ・ヌーヴェル」誌に対し、C919の型式証明取得には今後3~6年を要するとの見方を示しました。これは、国際的な運航許可を得る上で重要なプロセスです。加えて、中国の国営企業であるCOMACをめぐっては、その企業運営や技術開発における論争が指摘されることもあります。
結論
中国商用飛機(COMAC)のC919は、ボーイングとエアバスが長年支配してきた世界の民間航空機市場に、新たな競争をもたらす可能性を秘めています。中国国内市場の巨大な需要と、グローバルなサプライチェーンの混乱という追い風を受けながらも、国際的な型式証明の取得や様々な論争への対応など、乗り越えるべき課題も少なくありません。しかし、その潜在的な影響力は業界関係者から高く評価されており、今後の航空業界の勢力図を大きく塗り替える「三強体制」への移行が現実味を帯びてきています。COMACの挑戦は、世界の航空市場の未来を形成する上で、非常に重要な要素となるでしょう。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: 中国の航空機メーカーCOMACは、ボーイングとエアバスの2強体制を崩せるか (記事元:Business Insider Japan) – https://news.yahoo.co.jp/articles/2463fb4c0da2e7d7d3bd5ce4d2c5f09639f0345f
- Ch-aviation (航空情報サイト)
- 新華社通信 (中国国営通信社)
- Skift (旅行業界ニュースメディア)
- L’Usine Nouvelle (フランスの週刊誌)