かつて「銀行に入れば一生安泰」という黄金神話は、現代において完全に幻想と化しています。大手銀行で年収1,600万円を誇る支店長、関口智一さん（仮名・54歳）は、55歳での役職定年を目前に「キャリアデザイン研修」への参加を命じられました。表向きは「これからの人生設計のため」とされますが、その実態は「あなたの居場所はもうない」という銀行からの厳しいメッセージです。同期入社100人のうち、役員の座に上り詰められるのはわずか3人。残る97人は55歳で役職を解かれ、年収は一気に3割以上減少します。60歳の定年後はさらに大幅な減少が待ち受けています。この現実は銀行員にとどまらず、多くの大企業サラリーマンが直面する「静かな危機」に他なりません。この避けられない現実を乗り越え、希望ある老後を築くための秘策を、FPの青山創星氏が詳細に解説します。
誇り高きメガバンカーを襲う「キャリアデザイン研修」の真実
人事部から届いた「関口さん、来月のキャリアデザイン研修、出席よろしくお願いします」という一通のメールが、関口さんの人生観を一変させました。メガバンクの支店長として年収1,600万円を稼ぎ、50人の部下を率いる要職にあった関口さんは、まだ54歳になったばかりでした。この「キャリアデザイン研修」は表向き、「50代からのキャリア構築を考える」ためのものと説明されます。しかし、銀行員であれば誰もがその裏に潜む真の意味を知っています。それは、「あなたはもう役員コースではない」という、非情な宣告にも等しい烙印だったのです。
新入社員時代、同期100人全員が「銀行マンになれば一生安泰だ」と胸を張っていました。実際に、関口さんも含め多くの者が、30代で年収1,000万円を突破し、40代で支店長に昇進。家族を養い、念願のマイホームを購入し、子どもを私立大学に通わせることも夢ではありませんでした。しかし、まさに順風満帆に見えた人生の中で、この研修が突きつけた現実は、想像以上に残酷なものでした。
メガバンクの支店長が役職定年を前に、将来への不安を抱えながらオフィスで一人座っている様子
年収が激減！「役職定年」が突きつける残酷な現実
「皆さん、銀行での輝かしいキャリア、本当にお疲れ様でした。これからは第二の人生を考える時期です」――。研修講師のその言葉が会場の空気を凍てつかせたのを、関口さんは肌で感じました。研修参加者は皆、つい先日まで「今期の目標必達」や「部下の育成」に心血を注いでいた50代前半の管理職ばかりです。研修の核心は、彼らに容赦なく現実を突きつけました。55歳での役職定年後、ほとんどのケースで銀行関係会社や取引先企業への出向が命じられ、年収は現在の3割から5割も減少するというのです。
関口さんの場合、現在の1,600万円から55歳では約1,000万円（4割減）に、そして再雇用後の60歳時点ではさらに大幅に減少し、600万円を大きく下回る見込みです。同期100人のうち、将来の役員候補として銀行本体に残れるのはわずか3人のみ。関口さんを含む残りの97人は、役職定年によって管理職の座を降りる運命にありました。隣の席に座る同期が、低い声でつぶやいた言葉が関口さんの胸に深く突き刺さりました。「住宅ローンがまだ残っています。子どもは大学生で、親の介護も始まったばかりなんですが……」。これは彼だけの問題ではなく、参加者のほとんどが多かれ少なかれ、同様の経済的・家庭的困難に直面している現実がありました。
最も衝撃的だったのは、先に銀行関連会社へ転籍した同期の話です。40代半ばで銀行本体から関連会社へ出向した彼らは、すでに年収が800万円程度に下がっていましたが、「早めに出向した方が良かった」と語りました。その理由は明白です。50代で突然大幅な年収ダウンに見舞われるよりも、40代から段階的に収入が減少する方が、生活設計や家計の見直しを立て直しやすかったからだというのです。
結論
かつて日本の大企業、特にメガバンクで謳われた「一生安泰」という神話は、もはや過去の遺物です。50代を迎える多くのサラリーマンが直面する「役職定年」という現実は、年収の大幅な減少という厳しい現実を突きつけます。これは単なる個人の問題ではなく、日本社会全体における「静かな危機」として捉えるべきでしょう。このような環境下で、不確実な未来に備え、希望あるセカンドキャリアや老後を築くためには、FP青山創星氏が指摘するように、早期からの具体的な人生設計と資産形成への取り組みが不可欠です。
参考資料:
