人気漫画の「幻の0巻」とは?『鬼滅の刃 煉獄零巻』が紐解く主人公・煉獄杏寿郎の“原点”

コミックスは通常1巻から始まりますが、中には「0巻」という特別な存在があり、熱心なファンにとってはたまらない魅力に満ちています。これらは本編の知られざる前日譚や未発表作品、番外編などを収録し、物語の世界をより深く掘り下げてくれる貴重な一冊です。しかし、そのほとんどは劇場版の入場者特典や限定版DVDの初回予約特典としてのみ入手可能で、その希少性から中古市場では高値がつくことも珍しくありません。今回は、数ある「0巻」の中から特に人気を集めた作品を深掘りし、その秘められた価値と内容に迫ります。

劇場版『鬼滅の刃』を彩る「幻の特典」

吾峠呼世晴氏による大ヒット漫画『鬼滅の刃』においては、2020年に公開され社会現象を巻き起こしたアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の入場者特典として、「煉獄零巻」と名付けられたコミックスサイズの冊子が数量限定で配布されました。

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のキービジュアル。炎柱・煉獄杏寿郎と竈門炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助が列車を背景に立つ姿が描かれている。劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のキービジュアル。炎柱・煉獄杏寿郎と竈門炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助が列車を背景に立つ姿が描かれている。

この「煉獄零巻」は、吾峠氏による書き下ろし短編漫画「煉獄零話」をはじめ、「大正コソコソ噂話」、テレビアニメの内容をまとめた「血風剣戟冒険録」、外崎春雄監督と松島晃氏の対談、さらに主要声優陣のインタビューなど、84ページにわたる大ボリュームで構成されていました。特に注目を集めたのは、炎柱・煉獄杏寿郎を主人公とした19ページの短編「煉獄零話」で、『週刊少年ジャンプ』2020年44号にも掲載された吾峠氏の完全新作です。コミックスと同じ背表紙のデザインが施されたこの豪華特典は、多くのファンが劇場へ足を運ぶ大きな動機となりました。

煉獄杏寿郎の“炎の覚悟”が生まれた瞬間

「煉獄零話」は、鬼殺隊士となったばかりの杏寿郎が、父・槇寿郎に「お前も千寿郎も大した才能は無い くだらん夢を見るな」と冷たく突き放される場面から始まります。それでも明るく振る舞う兄を尊敬する弟の千寿郎は、初任務へと向かう杏寿郎に「兄上みたいになりたい」と憧れを伝えます。その言葉を聞いた杏寿郎は、かつて自分に「貴方みたいになりたい」と語った、ある鬼殺隊士のことを思い出します。

杏寿郎はその時、その隊士がやがて命を落としてしまうような嫌な予感がして、言葉に詰まってしまいました。同時に、父が自分たちに冷たい態度をとるのは、死んでほしくないという親心からではないかと、考えを巡らせていました。そして、杏寿郎の嫌な予感は的中してしまいます。初任務で鬼の潜む場所に辿り着いた際、殺された遺体の中に、かつて言葉を交わしたあの隊士がいたのです。人間の命が奪われたことに激しい怒りを覚えた杏寿郎は、鬼が繰り出す強力な笛の攻撃を、自らの鼓膜を破ってかわし、見事にその首を斬り落とします。

この決死の判断ができたのは、殺された隊士たちが命を賭して、指文字で鬼の能力を示してくれていたからでした。杏寿郎は命をかけて想いを繋いでくれた彼らを慈しみ、「君たちのような立派な人にいつかきっと俺もなりたい」と、鬼殺隊士としての決意を新たにするのでした。これ以来、煉獄杏寿郎は人を守るために戦い抜き、劇場版『無限列車編』では炭治郎たちにその熱い想いを託すことになります。吾峠氏も「しみじみと、良い子だな、主人公のようだなと思いました。」とコメントしていましたが、その熱く強い生き様はまさに少年漫画の主人公そのものです。

「0巻」は単なる特典に留まらず、キャラクターの過去や背景に光を当て、物語に深みと厚みを与える重要なピースとなります。特に「煉獄零巻」のように、本編では語られなかった主人公の“原点”を描くことで、ファンはキャラクターへの理解を一層深め、作品への没入感を高めることができるのです。これらの貴重な「0巻」は、作品世界を愛するファンにとって、コレクションとしても、そして物語を紐解く鍵としても、計り知れない価値を持つと言えるでしょう。


参考資料