ベトナム・ハロン湾観光船沈没:エアポケットから10歳男児を救出、不明者捜索は難航

ベトナム北部の世界遺産ハロン湾で発生した観光船の沈没事故は、乗客乗員に甚大な被害をもたらしました。この悲劇的な事故のさなか、転覆した船内のエアポケットに閉じ込められていた10歳の男児が奇跡的に救出される一幕がありました。しかし、悪天候が続く中、現在も多数の行方不明者の捜索活動が難航しており、被害の全容解明には時間を要する見込みです。

奇跡の生還:エアポケットに逃れた10歳男児

このハロン湾の観光船沈没事故で救助された10歳の男の子は、家族と共に乗船していました。船が航行中に突然の悪天候に見舞われ転覆・沈没する際、船内のわずかなエアポケット(空気のたまり)に機転を利かせて避難し、救助が到着するまで助けを待っていたと報じられています。現地メディアによると、男の子は精神的なショックを受けているものの、幸い大きな怪我はなく、速やかに近くの病院に搬送されました。「あまりにも急な出来事だった」「脱出しようとしていたら、兵士が助けてくれた」と、当時の緊迫した状況を証言しています。この少年の救出は、絶望的な状況の中での一筋の光となりました。

ハロン湾で転覆し、港にえい航される観光船。船体の一部が水面に露出している。ハロン湾で転覆し、港にえい航される観光船。船体の一部が水面に露出している。

悪天候が阻む捜索活動と死傷者数

事故現場では、依然として安否が確認できない乗客乗員の捜索救助活動が継続されています。しかし、連日の激しい雨や強風といった悪天候が捜索活動を著しく阻害しており、難航を極めています。国営メディアの発表によると、これまでに少なくとも37人の死亡が確認されており、この数字はさらに増える恐れがあるとされています。沈没した観光船には合計53人の乗客乗員が乗船しており、これまでに10人が救助されたと報じられていますが、依然として多くの人々が不明のままです。悪天候の中での捜索は、救助隊にとっても困難な状況が続いています。

決死の脱出劇:生存者の生々しい証言

この悲惨な事故の生存者の一人である36歳のベトナム人男性は、その時の決死の脱出劇を語りました。彼は、沈没が始まるやいなやライフジャケットを脱ぎ捨て、水没していく船の窓から泳いで脱出したと証言しています。AP通信の取材に対し、男性は乗船者が避難する時間はほとんどなかったと振り返りました。「15分ほど雨が続いた後、船が激しく揺れてテーブルやいすが揺さぶられ、数秒後に船がひっくり返った」と、状況の急変を説明しました。そして、「息をしようとしたが水がどんどん入ってきた。私は大きく息を吸ってライフジャケットを捨て、水に潜った。一筋の光をたどってボートから脱出し、転覆したボートによじ登って助けを求めた」と、命がけの行動を詳細に語りました。この男性を含む数人が、その後約2時間にわたり転覆したボートにしがみつき、大雨の中で救助の到着を待ち続けたといいます。彼は大学の友人11人と一緒に乗船していましたが、助かったのは彼を含めわずか3人だったという痛ましい現実も明かされました。

今回のハロン湾観光船沈没事故は、突然の天候急変が引き起こす水難事故の恐ろしさを改めて浮き彫りにしました。奇跡的な救出事例があった一方で、未だ多くの行方不明者がおり、懸命な捜索活動が続いています。犠牲者の無念と生存者の心の傷は深く、一刻も早い全容解明と再発防止策の徹底が求められます。今後も当局による捜索活動の進捗と、事故原因の詳細な調査に注目が集まります。

参考文献

  • CNN
  • AP通信
  • Yahoo!ニュース