アイルランド「母子ホーム」で乳幼児遺骨発掘開始:未婚の母を巡る差別の歴史に光

アイルランド西部ゴールウェイ県の町チュアムで、かつて未婚の妊婦を収容していた施設「セント・メアリーズ・ホーム」の跡地における大規模な発掘調査が本格的に始まった。この施設跡地には、数百人もの乳幼児の遺骨が埋まっているとみられる汚水槽が存在しており、アイルランド社会が長年目を背けてきた歴史的な差別の闇に改めて光を当てるものとして注目されている。

「セント・メアリーズ・ホーム」とは:隠された真実と悲劇

「セント・メアリーズ・ホーム」は、アイルランド国内に存在した十数カ所の母子収容施設のひとつで、未婚の妊婦たちが社会から隠され、隔離されて出産に臨まされた場所である。出産後、多くの女性たちはわが子と強制的に引き離され、子どもたちは国内外へ養子に出されたり、勤労学校や障害者施設へ送られたり、中には不法な人身売買によって国外へ引き渡されたケースも報告されている。「クラン・プロジェクト」などの支援団体によると、1940年代から1970年代にかけて、2,000人以上の子どもが米国へ送られたという。

ホームで出産した女性たちは、しばしばカトリック教会が運営する「マグダレン洗濯所」へ送られ、無報酬の労働を強いられた。また、チュアムを含むこれらの施設内で死亡した乳幼児は、合計で少なくとも9,000人に上るとされている。

アネット・マッケイさんの母、マギー・オコナーさん(当時70歳)は、初孫の誕生を機に、何十年も心の奥底に封じ込めていた秘密を打ち明けた。マギーさんの第1子であるメアリーちゃんは、1943年6月、生後わずか6カ月で命を落としていたのだ。マギーさんは17歳の時、勤労学校の用務員に強姦され妊娠し、このホームへ送られたという。メアリーちゃんの死を知らされたのは、出産から6カ月後、別の勤労学校に収容された後のことだった。

アイルランド・チュアムの旧母子収容施設跡地に立つ、乳幼児の埋葬地を示す記念碑。2019年に撮影され、現在は一般非公開。アイルランド・チュアムの旧母子収容施設跡地に立つ、乳幼児の埋葬地を示す記念碑。2019年に撮影され、現在は一般非公開。

制度化された差別の歴史:カトリック教会と政府の役割

アイルランドでは、1922年から1998年という長きにわたり、カトリック教会と政府が未婚の母に罰を科すという極めて差別的な制度を設けていた。この制度は、未婚の母を社会から排除し、恥として隠すことを強制するものであった。政府は後にこの立場を転換したものの、その風潮が残した傷跡は現在も深く残っている。多くの女性たちが、出産後も精神的な苦痛を抱えながら生きてきた。

アネット・マッケイさんは、母マギーが英国へ渡り、6人の子どもを育て、外見上は「華やか」な生活を送っていたことについて、それは母が生き抜くためにまとった「見せかけ」の「よろい」であったと後に理解したと語る。彼女は会うことのなかった姉の死を悼み、アイルランドの田園地方にある小さな墓に姉が眠っていると想像することで慰めを得ていた。

真相究明への長い道のり:キャサリン・コーレスの告発から政府の謝罪へ

マッケイさんの想像は、2014年に打ち砕かれた。英国の新聞が「アイルランドにある未婚の母の収容施設跡で、汚水槽に乳児800人の遺骨が埋まっていた」と報じたのだ。これは、地元チュアムの歴史研究家であるキャサリン・コーレスさんの調査結果に基づいていた。コーレスさんは、この施設で796人の乳児が死亡し、その遺体が埋葬記録のないまま、使用廃止後の汚水槽に入れられたことを明らかにした。

当初、当局はコーレスさんの報告を全面的に否定し、1925年から1961年までホームを運営していたボン・セクール修道女会も、遺体が埋められた証拠はないと主張した。しかし、コーレスさんや生存者、その家族たちは声を上げ続け、その努力が実を結んだ。

アイルランド政府は2015年、国内の母子ホーム14カ所とその他の収容施設4カ所の調査に乗り出し、チュアムの跡地で「相当数」の遺骨を発見した。政府の報告書は、各施設における「恐るべき乳児死亡率の高さ」にもかかわらず、当局からの注意喚起がなされていなかったことを指摘。これを受けて2021年には政府から正式な謝罪と補償制度の発表があり、ボン・セクール修道女会も謝罪を行った。

発掘調査の現状と今後の課題:遺骨から語られる真実

家族や生存者の多くは、政府の対応が未だ不十分だと感じているが、チュアムでは2024年5月14日から、法医学的専門家による本格的な発掘調査が開始された。今後2年間をかけて、遺骨の発掘と分析が進められる予定だ。

調査に協力する法医学考古学の専門家、ニアム・マッカラーさんによれば、試掘調査の段階で、汚水槽跡の20区画から生後35週から3歳までの乳幼児の遺骨が見つかっている。マッカラーさんはCNNとのインタビューで、子どもが不法に死亡した証拠が見つかった場合は検視官に通知され、そこから警察にも通報されると説明した。一方で、遺骨は長い年月を経てばらばらの状態であり、親族と思われる人々の完全なDNAサンプルも不足しているため、身元や正確な死因の確認は極めて困難な作業になるだろうという見通しも示している。

生存者と遺族の願い:埋もれた命への鎮魂と尊厳

発掘現場では5月8日、家族や生存者らが専門家チームの説明会に集まった。その一人であるテレサ・オサリバンさんは、1957年にこのホームで生まれた。当時10代だった彼女の母親は、修道女から子どもは米国へ送られたと聞かされ、長年捜し続けた結果、オサリバンさんが30代になってからようやく再会を果たした。

オサリバンさんはCNNとのインタビューで、「死んでいたのは私かもしれない。助かった者と汚水槽の中の子たちとの差は紙一重だった」「その隣に私たちもいた。私たちは同じ部屋、同じ建物の中にいた」と、自らの体験と現場の状況を重ね合わせ、強い言葉で語った。そして、「槽から出してあげなければ」と、埋もれた乳幼児たちの遺骨が尊厳を持って扱われることへの切なる願いを込めた。

結論

チュアムでの乳幼児遺骨発掘調査は、アイルランド社会が未婚の母たちとその子どもたちに強いた歴史的な差別と不正義に真正面から向き合うための重要な一歩である。この調査は、過去の過ちを認め、犠牲となった無数の命に鎮魂をもたらし、生存者とその家族に尊厳を取り戻すための、困難だが不可欠なプロセスとなるだろう。遺骨の発掘と分析を通じて明らかになる真実は、再びこのような悲劇が繰り返されることのないよう、私たちに過去から学ぶことの重要性を強く訴えかけている。

参考文献

  • Original Article: Yahoo!ニュース (CNN.co.jp配信) – アイルランド「母子ホーム」跡地で乳幼児数百人の遺骨、発掘調査始まる. (最終閲覧日: 2024年X月X日)
    • Note: Original article specifies “Source link” so this is the closest translation of that implied reference.
  • Clann Project (クラン・プロジェクト)
  • Catherine Corless (キャサリン・コーレス)
  • Bon Secours Sisters (ボン・セクール修道女会)