かつて、世界中で報じられ日本でも大きな注目を集めた「ナッツリターン事件」。その渦中の人物である大韓航空元副社長の趙顕娥(チョ・ヒョナ)氏に、新たな転機が訪れています。一時は再起をかけたかのように見えた彼女が辿った波乱の転落人生とは?そして、背景にある大韓航空一族の「お家騒動」と今後の展望について、韓国芸能コメンテーターのヒョンギ氏の解説を交えながら深掘りします。
世間を騒がせた「ナッツリターン事件」の経緯
2014年12月、米ニューヨーク発韓国仁川(インチョン)空港行きのファーストクラスで起きた出来事は、瞬く間に世界を駆け巡りました。当時、大韓航空の副社長を務めていたチョ・ヒョナ氏(2023年に「チョ・スンヨン」に改名)が、離陸直前の機内でサービスされたナッツの提供方法に激怒したのです。
機内でのナッツ提供方法を巡る「ナッツリターン事件」の再現イメージ
彼女は「おい、おまえ、ひざまずいて(サービス記載部分を)探せって言っているんだよ!サービスマニュアルも知らないのに、連れて行かない!」と客室乗務員に対し大声で罵倒。マニュアルがすでに変更されていたにもかかわらず、自身の不手際を棚に上げ、チーフパーサーに対し「降りろ」と命令し、離陸準備を終えていた飛行機を搭乗口へ引き返させ、彼を降ろすという異常な事態を引き起こしました。
チョ・ヒョナ氏が客室乗務員に激怒し、飛行機を引き返させた状況の再現
この理不尽かつ権威的な行動は、韓国国民の激しい怒りを買い、チョ・ヒョナ氏は副社長を含む全ての役職から退任せざるを得なくなりました。報道陣の前で深々と頭を下げ謝罪する姿は、当時の韓国社会に大きな衝撃を与えました。その後、2017年まで続いた裁判では、暴行罪や強要罪などで懲役10ヶ月・執行猶予2年の判決を受け、一時的に自由の身となりました。
「ナッツリターン事件」に関する裁判で、執行猶予付き判決を受けたチョ・ヒョナ氏
執行猶予判決後、彼女は系列ホテルの社長に就任したり、平昌オリンピックの聖火ランナーを務めたりするなど、表舞台への復活を匂わせる動きも見られました。しかし、韓国芸能コメンテーターのヒョンギ氏によると、「その後、経営権について家族同士で揉め、さらなる転落が始まりました」と指摘。権力と財産を巡る財閥の闇が、彼女の人生に再び暗い影を落とすことになります。
韓国芸能コメンテーター、ヒョンギ氏の解説
「ナッツ姫」の現状:高級マンションが競売に
そんなチョ・ヒョナ氏の人生は、現在、経済的な困窮という新たな局面に突入しています。彼女が所有する自宅は、韓国ソウル市江南区(カンナム)にある高級マンション「ローデンハウス」。1フロアを占有し、広さ約245㎡、5つの部屋と3つの浴室を備えたこの物件は、2020年に約4億7400万円で購入されたとされています。しかし、この豪邸が現在、差し押さえの危機に瀕しています。
チョ・ヒョナ氏のソウル市江南区にある高級マンション「ローデンハウス」が競売にかけられる
チョ・ヒョナ氏は国税を滞納し、自宅はすでに4度にわたり差し押さえられています。これに伴い、国税庁は裁判所に強制競売を申し立て、マンションは推定約5億円で競売にかけられる予定です。ヒョンギ氏によると、「著名人が多く住んでいて人気の物件だから、すぐに売れるでしょう」との見方を示しており、現在はさらに価格が高騰し6~7億円に達するといいます。
では、なぜ彼女は国税を滞納するほど経済的に困窮してしまったのでしょうか。ヒョンギ氏の解説では、その主な原因は父親である趙亮鎬(チョ・ヤンホ)氏の死去に伴う多額の相続税にあるとされています。彼女が相続した財産に対する相続税は、実に600億ウォン(日本円で約60億円)という巨額に上りました。さらに、「お家騒動」とも呼ばれる経営権争いで家族に敗れた結果、彼女は現在、何の地位も失い、その資金源を絶たれてしまったと説明されています。
大韓航空元副社長、チョ・ヒョナ氏(ナッツ姫)の厳しい表情
転落人生の果てに見えるもの
「ナッツリターン事件」から始まったチョ・ヒョナ氏の転落人生は、一族間の経営権争いと巨額の相続税という現実の壁に直面し、ついに経済的破綻という局面を迎えました。彼女の物語は、韓国の財閥社会における権力の危うさ、そして莫大な富がもたらす重い責任と、その責任を全うできない場合の厳しい代償を浮き彫りにしています。公の場で権力を濫用した代償だけでなく、家族間の争いが引き起こした財産喪失は、彼女自身の選択と、社会構造の複雑さが絡み合った結果と言えるでしょう。彼女の今後の動向は、引き続き社会の注目を集めそうです。
参考文献
- Yahoo!ニュース: “ナッツ姫”の転落人生 (引用元記事)