韓国の戦時作戦統制権移管協議:在韓米軍の将来と核抑止の課題

李在明政権が米国との戦時作戦統制権(統制権)移管協議に着手しました。これは大統領選挙公約の履行とされますが、在韓米軍の規模や役割変更を巡る米国の「戦略的柔軟性」議論と重なり、大きな波紋を呼んでいます。米国からは在韓米軍の削減・撤収論も浮上する中、韓国側では統制権移管後の核潜在力確保に向けた韓米原子力協定改正が提起されています。本稿では、元外交部次官の申珏秀氏の提言を通じ、これらの重要課題と展望を考察します。

戦時作戦統制権移管:自力抑止能力の課題と警鐘

申珏秀元韓国外交部次官は、作戦統制権の自国保有は当然としつつも、現在の安全保障環境下での「自力による対北抑止能力」が重要だと指摘しました。特に、韓国の偵察・監視能力は「極めて不足」しており、準備が不十分な状態で感情的・政治的理由から統制権移管を進めれば、対北抑止力と防衛能力が低下すると警鐘を鳴らしています。「安全保障に練習はない」とし、一度国防力が弱まれば、北朝鮮の不測の事態に対処できず、実質的な問題が生じると強調しました。これは、国家安全保障における不可逆的な影響への懸念を示唆します。

申珏秀元韓国外交部次官の肖像。対北抑止と戦時作戦統制権移管、在韓米軍の将来に関する議論の専門家。申珏秀元韓国外交部次官の肖像。対北抑止と戦時作戦統制権移管、在韓米軍の将来に関する議論の専門家。

在韓米軍の将来と台湾有事への韓国の戦略的姿勢

統制権移管後の在韓米軍削減や再調整の可能性について、申元次官は「韓国が台湾問題にどのような立場を取るかによって、米国の決定も変わるだろう」との見解を示しました。在韓米軍は中国にとって脅威であり、同時に中国からの攻撃に対して脆弱であるため、米国は韓半島駐留の戦略的有用性を再評価せざるを得ない状況です。申元次官は、台湾有事の際に在韓米軍が韓半島の外で作戦を行うことに対し、韓国が深く理解し支援するほど、より多くの米軍が長期的に韓半島に駐屯すると強調しました。さらに、もし韓国が韓半島問題以外に関心がなく、米中対立で中立を守るなら、米国が韓半島に米軍を置く理由がなくなると警告。韓国は、同盟としての役割と行動を国際情勢と米国の戦略的柔軟性を考慮し決定すべきだと強く促しました。

韓米原子力協定改正と核抑止の戦略的検討

韓米原子力協定の改正に関しては、申元次官は北朝鮮の核・ミサイル能力高度化の継続を踏まえ、「主権国家として対応策を模索する次元で検討すべき」だと提言しました。北朝鮮が米国本土を攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を多数保有しているとされる現状では、「米国が本土攻撃のリスクを甘受して韓国に核の傘を提供し続けるかという疑念が避けられない形で増大する」と述べました。これは、北朝鮮の核脅威の深化に伴い、米国の拡大抑止の信頼性に対する韓国国内の懸念が高まっていることを反映しており、韓国が自国の安全保障のため、新たな戦略的選択肢を真剣に検討する必要があることを示唆しています。

結論として、李在明政権が進める戦時作戦統制権移管協議は、在韓米軍の将来、台湾有事への対応、核抑止力など、韓半島の安全保障全体に複雑な課題を提起しています。申珏秀元外交部次官の提言は、韓国が自国の能力不足を認識し、米国の「戦略的柔軟性」と国際政治の現実を直視することの重要性を示唆。感情論に流されず、中長期的な視点から国防と外交政策を戦略的に構築することが、今後の韓半島と東アジア地域の安定に不可欠となるでしょう。

参考資料

Yahoo!ニュース – 「李在明政権、統制権移管協議に着手…在韓米軍と核の傘に波紋」(朝鮮日報日本語版)