人気アニメ『鬼滅の刃』の最新映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」が、2024年7月18日に公開初日を迎えました。一部の映画館では1日に40回もの上映が組まれるなど、ファンの熱狂ぶりがうかがえます。原作コミックスは累計発行部数2億2000万部を突破し、2020年公開の「無限列車編」は日本映画歴代興行収入1位の404億円を記録し、社会現象となりました。今作がこの記録にどこまで迫るかにも注目が集まる中、最大の目玉の一つとなっているのが、敵キャラクターでありながら絶大な人気を誇る鬼、猗窩座の再登場です。
人気アニメ『鬼滅の刃』のキャラクター、猗窩座のフィギュア
猗窩座が持つ「武の美学」とその圧倒的な強さ
「無限列車編」で鬼殺隊の炎柱・煉獄杏寿郎と繰り広げた激闘は、多くの読者の記憶に深く刻まれています。ではなぜ、猗窩座は敵役でありながら、これほどまでにファンから支持されているのでしょうか。
まず挙げられるのは、その圧倒的な強さがもたらすインパクトです。鬼舞辻無惨によって選ばれた「十二鬼月」の中でも、「上弦の参」という高位に位置する猗窩座が放つ血鬼術「破壊殺(はかいさつ)」は、その物騒な名前とは裏腹に、空中に拳撃を放つというシンプルな攻撃です。他の鬼に見られるような毒や分裂といった変化球的な能力はなく、暴力性というよりは、求道的な武道の美学を感じさせます。煉獄との正面からのぶつかり合いは、強さの極致を描いた名場面として高く評価されました。
悲劇の過去と強さへの執着:猗窩座の複雑な背景
猗窩座が煉獄に対し「鬼にならないか?」と誘う場面は、逆説的に「もし猗窩座が鬼にならなかったら、煉獄のように誇り高く生きていたのでは」「それでも鬼になることを選ばざるを得なかったほどの悲劇があったのでは」と、読者に深い余韻を残しました。
十二鬼月は数字が小さいほど強く、作中では鬼同士の「血戦」による順位の入れ替えもあるという設定が明かされています。原作でその戦い自体の描写はなかったものの、猗窩座は過去に2度「血戦」で敗れている可能性が示唆されています。『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』によれば、「上弦の壱」である黒死牟に挑んで敗北したことが明かされており、「上弦の弐」の童磨も黒死牟との会話で猗窩座のことを「我らには勝てまい」と評しています。童磨の「前よりも少し強くなったかな? 猗窩座殿」というセリフや、猗窩座より後から鬼になった童磨が上位にいることからも、血戦によって順位が変動したと推測できるのです。勝者が敗者を吸収するルールにもかかわらず、猗窩座がなぜ吸収されずに生き残っていたのかは不明ですが、鬼舞辻無惨が「死なせるには惜しい」と評価していたのかもしれません。
さらに、童磨が表向きフェミニストを装いながら女性を次々と喰らう冷酷な鬼であるのに対し、猗窩座は強面ながらも女性を食べないという「ギャップ」も、ファンの心をつかむ要素です。
猗窩座には「軽犯罪者の印」とされる入れ墨が彫られており、熱心なファンの間では、彼が鬼になったのは入れ墨罪が制度化された1700年代中盤頃ではないかという考察もあります。また、「113年ぶりに上弦を殺されて、私は不快の絶頂だ」という鬼舞辻無惨のセリフからも、猗窩座が100年以上生き続けていた可能性が高いことがわかります。その間、2度の敗北を経験しながらも強さを追い求め続けてきたバックボーンを想像すると、猗窩座というキャラクターはさらに奥行きを増します。
そして原作では、猗窩座が鬼になる前、狛治(はくじ)という名の青年だった頃に、大切な人々を自らの無力さゆえに守れなかった悲劇が描かれます。その第155話のタイトルは「役立たずの狛犬」でした。彼が嫌う「弱き者」とは、他ならぬ自分自身だったのかもしれません。
新章での展開:炭治郎と義勇の挑戦
今作「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」では、その猗窩座に、主人公・竈門炭治郎と、鬼殺隊の中でも人気の高い水柱・冨岡義勇が挑みます。ファンにとっては、まさに胸が熱くなる展開です。
「敵キャラ」ですら強烈な存在感を放つ『鬼滅の刃』。劇場に足を運んだ観客は、改めてこの作品の「深み」に圧倒されることでしょう。
参考資料
- 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』集英社
- 吾峠呼世晴『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』集英社
- Yahoo!ニュース (realsound.jp) 「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」に関する記事