今回の参院選では、自民・公明の連立与党の過半数割れや、参政党などの新興中小政党の躍進が大きな注目を集めた。しかし、野党第一党である立憲民主党の立ち位置は、その陰に隠れて見過ごされがちだ。ジャーナリストの尾中香尚里氏は、立憲民主党が公示前議席を維持したことを「地味な前進」と評しつつも、党の実力以上に「政権」が近づいている現状を指摘する。彼らは今、余計な動きを避け、「政権を担える政党」への脱皮を図るべきだという。
参院選結果:見過ごされがちな立憲民主党の立ち位置
参院選が終わり、多くのメディアが与党の苦戦と新興政党の躍進に焦点を当てる中、立憲民主党の議席数は公示前と変わらず「現状維持」となった。野党が候補者調整を行った結果、与党に18勝14敗と勝ち越し、立憲民主党も与党の過半数割れに一定の役割を果たしたものの、複数区や比例代表での伸びを欠き、党勢拡大には至らなかった。この「地味な前進」は、派手な選挙結果を求める向きには面白くないと映るかもしれない。
躍進した参政党や国民民主党といった中小政党と比較すると、立憲民主党の選挙結果は確かに地味に映る。党関係者の中にはこれを「敗北」と受け止める声もあるが、全国1区の比例代表や複数区の存在など、中小政党が議席を得やすい参院選の制度を考慮すれば、自公政権が大きく揺らぐ中で「横ばい」を保ったことは、むしろ「踏みとどまった」と評価できるだろう。
参院選で躍進した参政党の集会風景
「実力以上」に近づいた政権:立憲民主党の新たな現実
筆者が特に危惧するのは、政権を争う自公政権との関係において、立憲民主党が「相対的に力を増した」ことだ。選挙後の各党の議席増減に注目しがちだが、国会においては現有の議席数こそが「リアルパワー」として機能する。
今後の政治情勢次第では、例えば自民党内で「決められない政治」が顕在化した際、立憲民主党が「政権与党並み」に現実の政治を動かす判断を迫られる可能性も出てくる。さらに、自民党の党内事情によっては、予想もしないタイミングで立憲民主党に政権が転がり込む可能性もゼロではない。このような状況は、彼らの実力以上に政権が「近づいてしまった」という新たな現実を意味する。
政界の流動に備える野党第一党の責任
「横ばい」という選挙結果を厳しく総括し、次期衆院選への準備を急ぐことはもちろん重要だ。しかし、選挙の「敗北」感にとらわれ、党の実力以上に政権が近づいている現実への意識を欠くと、立憲民主党は激しい政治の渦に巻き込まれ、党の寿命を縮めてしまう恐れがある。
立憲民主党は、今後起こり得る政界の流動に耐え抜き、いつ政権を担う可能性が生じても動じないための準備を、現在の総括と同時並行で始めるべきである。野党第一党としての責任とは、まさにこの点を肝に銘じ、常に政権交代の可能性を視野に入れて行動することに他ならない。
参考文献