ドナルド・トランプ米大統領が世界各国に広範に実施する関税政策が、意図せずロシアに経済的な恩恵をもたらしている。今年4月以降、57カ国が10%の基本関税を課され、さらに8月1日以降は最大50%の相互関税が米国向けに求められる状況にある中で、関税対象リストから除外されたロシア製品が米国市場でのシェアを拡大していると、ワシントン・ポスト紙が報じた。特に注目されるのは尿素の事例で、米国市場分析機関ストーンエックスによると、5月に米国に輸入された尿素の64%がロシア製であり、トランプ大統領の関税施行前と比較してシェアが2倍以上に増加した。主要輸出国であるカタールやアルジェリアの尿素価格が関税の影響で上昇する中、関税免除のロシア製尿素は価格競争力を高め、米国はロシアへの依存度を深める結果となっている。
トランプ大統領は、各国による不公正な貿易慣行を是正するためとして、ニュージーランド領トケラウやノルウェー領スバールバル諸島といった僻地、さらには無人島までも含む広範な地域に関税を適用した。しかし、ロシアはこの対象から除外されている。ホワイトハウスのレビット報道官は、「ロシアは既に米国の制裁により、実質的に貿易が中断されている」と理由を説明し、キューバ、ベラルーシ、北朝鮮も同様に既存の制裁や高関税により除外されたと述べた。一方、トランプ大統領がロシア・ウクライナ間の停戦仲介に乗り出している背景から、ロシアを意識した政治的判断があったとの分析も浮上している。
しかし、この「関税特恵」も長くは続かない可能性がある。トランプ大統領の停戦要求にロシアのプーチン大統領が応じない現状に対し、トランプ大統領は忍耐力を失いつつあり、新たな関税による威嚇に出ている。トランプ大統領は14日、「プーチンには非常に不満だ。もし50日以内に停戦合意がなされなければ、ロシアに対し非常に厳しい関税を課すだろう。その水準は約100%になり、『セカンダリー関税』と呼べるものになる」と警告した。これは、制裁対象国と貿易を行った第三国に対し、高率の関税を課すことを意味する。米国のウィテカー北大西洋条約機構(NATO)大使は、この措置がロシアから石油を購入するインドや中国などを標的としたものであり、ロシア経済に甚大な影響を及ぼすだろうと指摘する。実際、米上院では、リンジー・グラハム議員主導で、ロシアから原油やガスを輸入する国に500%の関税を課す法案が議論されている。
しかし、トランプ大統領がこの「セカンダリー関税」を決行するのは容易ではないとの見方も存在する。貿易データ分析会社ケプラーのアナリストはCNNに対し、「ロシアが担う世界の1日の原油消費量は340万バレルにも上る。ロシア産原油の供給が閉ざされれば、原油価格は確実に高騰するだろう」と述べた。スイスの大手投資銀行UBSのアナリストも、「トランプ大統領が原油高を嫌うのは自明の事実であり、セカンダリー関税はプーチン大統領だけでなく、トランプ大統領自身にも圧力をかけることになる」と分析している。原油価格の上昇は、トランプ大統領が最も懸念する米国の物価上昇、すなわちインフレを招きかねないためだ。
ドナルド・トランプ米大統領がホワイトハウスで署名済みの重要文書を示す。広範な関税政策と国際貿易における米国のスタンスを示す象徴的な光景。
一方、ウクライナ戦争を機に本格化した北朝鮮とロシアの協力は、軍事分野を超えて経済に拡大している。昨年6月に両国が締結した「包括的かつ戦略的パートナーシップに関する条約」の結果として、北朝鮮産のリンゴがロシアのスーパーマーケットに並び、北朝鮮の漁船がロシア極東の海岸に集まるなど、具体的な経済連携の動きが見られていると英フィナンシャル・タイムズ紙は報じた。
トランプ大統領の関税政策は、国際貿易に複雑な影響を及ぼし、意図せぬ形で特定の国に恩恵をもたらすことがある。特にロシアは、その政策の恩恵を受けつつも、今後の米ロ関係の動向次第では新たな経済的圧力に直面する可能性がある。こうした動きは、世界の経済バランスや国際政治の力学に深く関わるものであり、今後の展開が注視される。同時に、ウクライナ戦争を背景にロシアと北朝鮮の経済的結びつきが強まるなど、国際社会の多極化と新たな協力関係の構築も進んでいる。
参考文献:
- ワシントン・ポスト (The Washington Post)
- ストーンエックス (StoneX)
- CNN
- ケプラー (Kepler)
- UBS (Union Bank of Switzerland)
- フィナンシャル・タイムズ (Financial Times)
- AP通信 (Associated Press)
- 聯合ニュース (Yonhap News)