アスベスト除去作業、密閉空間での事故が頻発:CO中毒や死亡事故、2028年ピークに向け対策急務

建物解体に伴うアスベスト(石綿)除去作業中に、密閉された空間での労働災害が相次いで発生しています。特に、作業環境の特殊性から、一酸化炭素(CO)中毒や有機溶剤による事故が多発しており、専門家は現在の対策が十分ではない現場も存在すると指摘しています。飛散性の高い石綿建材を含む建物の解体は2028年度ごろにピークを迎えると予測されており、今後さらなる事故増加の懸念が高まっています。

密閉空間での多発する事故とその背景

近年、アスベスト除去作業中の事故が全国各地で報告されています。2025年3月には東京都千代田区のビル解体現場で、作業員16人がCO中毒となり病院に搬送される事態が発生しました。続いて5月には堺市の工事現場で3人が倒れ、うち1人は一時意識不明の重体となりました。これらのケースは、いずれも石綿除去作業中の密閉空間で発電機を使用していたことが原因とみられています。

東京都千代田区のビル解体現場で、一酸化炭素中毒事故発生後、集まる消防隊員たち。アスベスト除去作業中の密閉空間における安全対策の重要性を示す事例。東京都千代田区のビル解体現場で、一酸化炭素中毒事故発生後、集まる消防隊員たち。アスベスト除去作業中の密閉空間における安全対策の重要性を示す事例。

さらに深刻な事故として、4月に大阪市で起きたビル解体現場での女性作業員死亡事故が挙げられます。この事故では、石綿を剥がすために密閉空間で有機溶剤を使用していたとみられており、現在、大阪府警が業務上過失致死容疑も視野に入れて捜査を進めています。これらの事例は、アスベスト除去作業特有の密閉環境が新たな危険因子を生み出している現状を浮き彫りにしています。

アスベスト除去作業の危険性と今後の課題

日本石綿対策技術協会によると、アスベストの粉じんを吸い込むと、じん肺や肺がんといった重篤な健康被害を引き起こす恐れがあるため、除去作業には粉じんの飛散防止措置が義務化されています。人体への深刻な危険性に加え、粉じん飛散を防ぐために作業空間を完全に密閉する必要があるため、アスベスト除去工事は極めて難易度の高い作業とされています。

石綿(アスベスト)建材を含む大規模建造物の解体棟数推移のグラフ。2028年度ごろにピークを迎えると予測され、今後のアスベスト除去工事の増加とそれに伴う安全管理の課題を示す。石綿(アスベスト)建材を含む大規模建造物の解体棟数推移のグラフ。2028年度ごろにピークを迎えると予測され、今後のアスベスト除去工事の増加とそれに伴う安全管理の課題を示す。

現状の事故頻発は、密閉空間での作業におけるリスク評価や安全管理体制の不備を示唆しており、2028年度ごろに石綿建材を含む大規模建造物の解体がピークを迎えることを考えると、これらの事故がさらに増加する可能性は否定できません。作業員の安全確保と健康被害の防止のためには、より一層徹底した安全対策と、作業環境に適した技術導入が急務となっています。

アスベスト除去作業は、環境と作業員の安全に直結する重要な工程です。今後、ピークを迎える解体需要に対応しつつ、同様の悲劇を繰り返さないための抜本的な安全対策の強化が強く求められます。

参考文献: