2025年7月、日米間で協議されていた「相互関税」が15%への引き下げで妥結しました。この「予想外の譲歩」に日本国内では安堵の声が聞かれる一方、国際ジャーナリストの矢部武氏は「交渉が妥結しても安易に喜ぶことはできない」と警鐘を鳴らします。経済の「ディール」は終わっただけで、次はさらに重い「軍事のディール」が控えているという氏の見解から、現在の日米関係とトランプ政権の動向を深く掘り下げます。
貿易合意の「安堵」は危険信号か
多くのメディアが報じた通り、日米貿易関税交渉における「相互関税」の妥結は、日本の関係者にひと安心の空気をもたらしました。しかし、トランプ政権の真の狙いは、単なる関税問題に留まらない可能性があります。過去に防衛費の大幅増額や、在日米軍駐留経費のさらなる負担増を日本に要求してきた経緯を鑑みると、今回の関税合意は、より大きな要求への序章に過ぎないと見るのが妥当でしょう。日米関係において、経済的圧力は常に軍事的、安全保障上の要求と密接に結びついてきました。この経済的な決着の前後から、米国ではある「異様な光景」が出現し始めています。
「異様な光景」:トランプ大統領の軍事パレードが示すもの
トランプ大統領の79歳の誕生日である2025年6月14日、首都ワシントンD.C.では、まるで独裁国家を想起させるような大規模な軍事パレードが繰り広げられました。ワシントン記念塔の上空では軍用機が旋回し、空挺部隊が降下。約7000人の兵士、数十台の戦車や軍用車両、さらには軍事ロボット犬までが、ホワイトハウス南方の憲法通りを行進しました(英紙ガーディアン、2025年6月15日付)。
2025年6月14日、ワシントンD.C.で行われた米陸軍創立250周年記念パレードの様子。トランプ大統領の強い指導者としての演出を象徴する光景。
この軍事パレードは、米陸軍創設250周年を祝うという名目で行われたものの、その実態はトランプ氏個人のための「強い指導者」としてのイメージ演出であり、自身の支持基盤を強化する狙いがあったと見られています。これは、来るべき大統領選挙に向けたトランプ政権の求心力強化の一環であり、同時に国内の抗議デモなどを鎮圧するために、軍隊を利用するための地ならしであった可能性も指摘されており、その政治的な意図と国際情勢への影響が懸念されています。
米国における軍隊利用の法的制約と危険性
米国では、基本的に民間人に対して軍隊を使用することは厳しく制限されており、これは民主主義国家としての根幹をなす原則です。しかし、トランプ大統領は2025年6月、ロサンゼルスでの移民強制送還に抗議するデモの鎮圧に際し、州兵と海兵隊を動員するという異例の措置を取りました。この行動は、軍隊の国内における役割に関する従来の規範を逸脱するものであり、国民の表現の自由を脅かす深刻な前例となり得ます。もしこのような軍隊の動員が全米各地で常態化するような事態になれば、民主主義の基盤が揺らぎ、市民の権利が重大な危機に瀕することになります。
結論
今回の日米貿易における相互関税の合意は、一時的な懸念を和らげるものでしたが、それはトランプ政権が日本に求める「より重い代償」の序幕に過ぎないかもしれません。国際ジャーナリストが警鐘を鳴らす通り、今後は防衛費や駐留経費の負担増など、軍事面での「ディール」が本格化する可能性が高いと推測されます。日本は、安堵に浸ることなく、来るべき交渉に備え、変化する日米関係と国際情勢を注意深く見守る必要があります。