北海道でヒグマによる人身被害が相次ぎ、駆除が行われる中で、行政機関には動物愛護団体や個人から「クマを殺すな」といった抗議電話が殺到し、業務に支障をきたしている現状があります。この状況に対し、札幌市議会議員・成田祐樹氏がX(旧Twitter)に投稿した、抗議電話を「ナビダイヤル」に転送するというアイデアが注目を集め、様々な議論を呼んでいます。
ヒグマ駆除の危険性を示すイメージ写真。北海道のクマ対策現場。
相次ぐヒグマ襲撃と行政への抗議電話
2025年7月12日、北海道福島町で新聞配達中の男性がヒグマに襲われ死亡するという痛ましい事件が発生しました。これを受け、福島町役場は町内全域に「ヒグマ警報」を発令し、住民に夜間から早朝にかけての外出自粛を呼びかける事態となりました。
住民の不安が広がる中、18日未明にハンターが当該のヒグマを駆除しました。しかしその一方で、福島町役場には動物愛護団体や個人から「クマを殺すな」といった趣旨の抗議電話が相次ぎ、行政の業務を圧迫したといいます。北海道の鈴木直道知事は25日の会見で、「2時間も何時間もご連絡いただくということで、これはもう仕事にならない。命の危険を持ちながらも、ハンターの方に捕獲していただいている。このことをどうか理解していただきたい」と述べ、現場の深刻な状況を訴えました。
札幌市議・成田祐樹氏のX投稿と「ナビダイヤル」案
こうした現状を受け、立憲民主党所属の札幌市議会議員である成田祐樹氏は20日、自身のXアカウントで苦情電話への対策案を投稿しました。「北海道の役場にかかってくる熊の駆除に抗議する電話、全部転送して広域のコールセンターで受けられないかな。ナビダイヤル10秒300円くらいで」と提案。ナビダイヤルは、一般的な定額かけ放題プランの対象外となる有料通話サービスで、発信者側に高額な通話料が発生する仕組みです。
成田氏はさらに、このアイデアに対し寄せられた「集まったお金は全部熊対策費用に回したりとか」というリプライに「そうです、転送して徴収した費用は熊対策に」と反応。抗議電話をかける人々に対し、「熊対策しなければならない役場の人手を一番奪っているんですよね……何も想像できないから電話するのでしょうが」と、行政の現場が直面する課題を指摘しました。
2時間で21万6000円?「試算」が示す背景
26日には、抗議電話のやり取りを想定した会話形式の投稿も公開。「ヒグマを駆除するなんて!!」「では、担当課にお繋ぎしますね~」「ナビダイヤルにお繋ぎします。この電話は10秒あたり300円…」「もしもし、クマ担当の熊谷です。いや~、駆除するなというお気持ち、良くわかりますよ~……あ、待って、もう少しお話しを聞かせて下さい!」と、皮肉を込めた内容を展開しました。
成田氏は、鈴木知事の「2時間以上続く電話もある」という発言を引用し、「2時間で21万6000円か…悪くないな」と具体的な金額を「試算」。この投稿には「これいいな 受託して時間とかいろいろ稼ぎたい(笑)」「電話対応した職員にその金額を『手当て』としてそのまま支給しましょう!」など、肯定的な意見が多数寄せられました。一方で、「クマを駆除するなというのは動物愛護の観点からみて一国民としての意見としては間違ったものではないのでは?」といった指摘もあり、議論を深めています。
投稿が意図せず大きな反響を呼んだことについて、成田氏は「意図せず跳ねてしまった…」と述べつつ、ヒグマ対策に追われる北海道福島町へのふるさと納税による支援を呼びかけました。
結論
今回の札幌市議の提案は、ヒグマによる人身被害と、それに対する駆除作業に伴う行政への過度な負担という、北海道が直面する深刻な社会問題の複雑さを浮き彫りにしました。住民の安全確保と野生動物管理のバランス、そして動物愛護の観点からの意見表明と、行政実務の円滑な遂行との間で生じる摩擦は、決して単純な問題ではありません。成田氏のアイデアは賛否両論を巻き起こしましたが、この問題の本質と、行政が直面する困難への理解を深めるきっかけとなりました。