自民党が歴史的な大敗を喫した今回の参議院選挙後、石破茂・党総裁を筆頭とする執行部への責任追及の動きが活発化している。特に若年層の自民党離れが深刻な問題として浮上する中、党内では事実上の「退陣要求」が突き付けられ、いわゆる「石破おろし」の動きが加速する。しかし、この危機は単なる総裁交代で収まるような甘い状況ではないと、複数の専門家が指摘している。
「石破おろし」の加速と総裁選要求の背景
参議院選挙での自民党の大敗を受け、中曽根康隆氏(1982年生まれ、当選3回、昨年11月より自民党青年局長)は7月25日、森山裕・幹事長(80)のもとを訪れ、青年局の申し入れ書を提出した。この申し入れ書では、特に若年層が自民党を支持しなくなっている現状への強い懸念が表明され、参院選の責任を取り、石破総裁を筆頭とする執行部に対し、事実上の「退陣要求」が突き付けられたと担当記者は語る。
これに加え、石破総裁の責任を問うため、党内では両院議員総会の開催を求める署名活動が行われていた。開催に必要な党所属国会議員の3分の1以上の署名が集まったことが発表され、「石破おろし」の動きは一層加速する一方だ。自民党内では、石破総裁に“退場”してもらい、総裁選を実施して新総裁、すなわち新首相を選出。その後間を置かずに解散総選挙に踏み切り、過半数の議席獲得を目指すというシナリオが描かれている。
政治アナリストが指摘する「勝利の方程式」の限界
しかし、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、この自民党が描く“勝利の方程式”が、今の有権者には通用しない可能性を指摘する。自民党に今も吹く強い逆風は、単に総裁を変えた程度では収まらないという見解だ。
伊藤氏は、今回の参院選の敗因について自民党関係者が口を揃える「業界団体の動きが極めて鈍かった」という点を強調する。これまで自民党が選挙に強かったのは、業界団体、役所、企業の3組織が強固な「鉄のトライアングル」で結束し、正真正銘の「組織票」をかき集めてきたからに他ならない。しかし、今回の参院選では業界団体が全く票を出さなかったという。これは「失われた30年」の結果であり、給与が上昇せず、インフレや税金、社会保障の負担に苦しむ現役世代が自民党に愛想を尽かしたように、景気が全く上向かない状況に業界団体も自民党支持から遠ざかったのだと伊藤氏は分析する。この衝撃は大きく、まさに自民党の足元が揺らいでいる状態にあるという。
日本経済の長期低迷と自民党の構造的課題
日本の長期にわたる経済低迷も、自民党が直面する危機を深くしている。2001年には世界の国民一人あたりの名目GDPで5位だった日本が、2024年には38位まで転落してしまった事実は、その深刻さを示している。
伊藤氏は続ける。「気がつけば日本の高度成長を支えてきた先端技術分野は壊滅状態に陥っています。日本だけで半導体を作ることは不可能になり、今では台湾の助力が必要です。この30年間、自民党には国家戦略や成長戦略が全く描けませんでした。業界団体を含む有権者の怒りは非常に強く、自民党の総裁=首相を変えたからといって支持が戻るような甘い状況ではないでしょう。今の自民党は結党以来の危機に直面していると言って過言ではありません。」
アカデミズムからの警告:自民党「自己崩壊」のシナリオ
自民党の危機説、自民党崩壊説は、アカデミズムの世界からも指摘されている。東京大学教授で行政学が専門の牧原出氏は、参院選での自民党大敗に関して朝日新聞の取材に応じ、その見解が7月22日の朝刊に掲載された。(註)
牧原氏は《自民党が置かれている状況は深刻》と述べ、《次の衆院選に向けて、自公政権は「政権交代なきまま自己崩壊」という道を歩むのかもしれません》と、自民党にとっては最悪のシナリオを提示している。
森山幹事長と面会する自民党青年局長の中曽根康隆氏
危機に瀕する自民党の今後の行方
今回の「石破おろし」の動きは、単に石破政権の問題に留まらず、自民党全体が直面する構造的な危機を浮き彫りにしている。経済の長期低迷、組織票の崩壊、そして30年間にわたる明確な国家戦略の不在が、有権者の深い不満と不信を生み出している現状を鑑みると、単なるトップ交代でこの危機を乗り越えることは極めて困難である。自民党が「結党以来の危機」をどのように乗り越え、国民の信頼を取り戻すのか、その行方が注目される。
参考文献
- 正念場に立つ石破総理 (Yahoo!ニュース, 元記事: デイリー新潮)
- 朝日新聞デジタル (2024年7月22日朝刊掲載記事に関連)