がんの「正体」に迫る:進化する治療と希望の現在地

日本人の半数が一生のうちに罹患し、死因の第1位を占める「がん」。かつては不治の病というイメージが強かったこの疾患に対し、最新の研究と医療の進歩は、その「正体」を徐々に明らかにし、治療の展望を大きく変えつつあります。本シリーズの初回では、体内でがんがどのように発生するのか、その基本的な仕組みとともに、がんを取り巻く現状と未来への希望について解説します。

がん治療の劇的な進歩:5年生存率70%の現実

がんは、私たちにとって極めて身近な病です。親しい人をがんで亡くしたり、あるいは自らががんと闘った経験を持つ人も少なくありません。日本では、2人に1人ががんに罹患し、4人に1人ががんで命を落とすというデータは、その深刻さを示しています。しかし、この現実は着実に変化しています。

取材に応じたある医師は、「約50年前、がんの5年生存率はわずか30%でした。それが現在では70%近くまで向上しています」と語ります。がんは依然として重い病ですが、早期発見と適切な治療により「治る病気」へと変貌しつつあるのです。医師はさらに、「『がんです』と告知されると、いまだに多くの方が頭が真っ白になってしまいます。しかし、早期に発見できれば治療後すぐに社会や家庭に復帰することが可能です。海外旅行に行くような感覚で一時的に休養し、現実社会に戻ってこられる。がんに対するイメージが悪すぎるのです」と、認識の刷新を訴えています。この医療の進歩は、患者とその家族にとって大きな希望となっています。

がん細胞と正常細胞がん細胞と正常細胞

かつては「ミステリー」だったがん:科学の解明が拓く未来

がん研究と治療が日進月歩を遂げていることは間違いありません。アメリカのがん研究の第一人者であるマサチューセッツ工科大学のロバート・ワインバーグ博士は、1999年刊行の著書『がん研究レース』(岩波書店)の中で、かつてのがん研究の状況を次のように綴っています。「がんはどのようにして生ずるのか? 20年前、われわれはこの問いに対する明快な答えを持っていなかった。がんが、われわれの体の正常な組織から生じた無統制に増える細胞であり、放射線、化学発がん物質、がんウイルスなどがその原因となり得ることはわかっていたが、それ以上はまったくのミステリーだった」。

さらに博士は、「1980年代半ばに至るまでの一〇~二〇年の間、抗がん剤やその他のがん治療法は、ほとんど改善されなかった。それは、抗がん剤を探し求める研究者たちが、発がんのメカニズムに関する正確な知識を持ち合わせていなかったがために、ただやみくもに手探りするしかしようがなかったためである」と述べています。がんの大家をして「ミステリー」「ただやみくもに手探りするしかなかった」と言わしめる時代があったのは事実です。しかし、この証言は、その後のがん研究における画期的な進展と、発がんメカニズムの解明がいかに治療法の開発に不可欠であったかを浮き彫りにしています。

まとめ

現在、がんの発生メカニズムや、細胞レベルでの「がん幹細胞」の働きなど、その「正体」は驚くほど解明されつつあります。これにより、従来の治療法に加え、より個別化された精密医療や免疫療法といった新たなアプローチが可能になり、多くの患者に新たな選択肢と希望がもたらされています。がんは依然として複雑な病ですが、科学と医療の絶え間ない努力によって、その克服に向けた道のりは着実に進んでいます。私たち一人ひとりががんに対する正しい知識を持ち、早期発見の重要性を理解することが、この希望の時代を生きる上で不可欠です。


参考文献:

  • ロバート・ワインバーグ (1999) 『がん研究レース』 岩波書店.