かつて、学生にとってテレビ局は揺るぎない人気の就職先であり、多くの若者が憧れの眼差しを向けていました。しかし近年、その状況は大きく変化しています。『就職四季報総合版』(東洋経済新報社)の「就職人気企業ランキング」において、テレビ局が上位100位圏外となるなど、その人気は顕著に後退しています。テレビの「絶頂期」を経験し、2014年に退職するまで15年間NHKでアナウンサーとして勤務した今道琢也氏は、自身の著書『テレビが終わる日』(新潮新書)の中で、データと自身の経験に基づき、現在のテレビ業界と就職市場の異変を深く分析しています。本稿では、その一部を抜粋し、テレビ局への就職希望者が直面する現実と、業界人気の凋落背景に迫ります。
小論文指導現場で顕著になった「テレビ局離れ」
学生の「テレビ局離れ」は、私自身が経営する小論文指導専門の塾の現場でも肌で感じています。2014年にNHKを退職後、私はこの事業を立ち上げました。退職の理由は、決して「テレビの将来に見切りをつけたから」といった大層なものではなく、純粋に自分で事業を運営したいという思いからでした。
日本では、大学入試、就職試験、昇進試験など、人生の様々な節目で小論文試験が課される機会があります。特に、テレビ局や新聞社、出版社といったマスコミ業界の就職試験では、多くの企業で小論文や作文が重視されています。創業当初は、私自身がテレビ局出身であることから、テレビ局の受験を志望する方からの指導依頼が多く来ると予想していました。
しかし、その予想に反し、最も依頼が多かったのは昇進試験を受ける方々で、これに公務員試験や大学入試の受験者が続いていました。テレビ局志願者からの指導依頼は、もともとそれほど多くはありませんでしたが、それでも設立当初は毎年数件の依頼がありました。
就職人気ランキングと連動する「志願者消滅」の背景
しかし、指導依頼の数は年々減少していきました。そして、3〜4年ほど前からでしょうか、ついにテレビ局志願者からの指導依頼が「ゼロ」となったのです。このゼロの状態は現在も続いています。この現象は、前述した「就職人気企業ランキング」からテレビ局が上位100社から姿を消した時期と、奇しくも重なっています。
一方で、公務員試験の受験者など、他の分野からの指導依頼は以前と変わらず寄せられています。この状況は、テレビ局志願者からの依頼だけが、あたかも「消滅」してしまったかのような特異な状態を示しています。もちろん、これは小さな私塾で起きた局地的な出来事であり、この話をそのまま一般化することはできません。しかし、私自身の肌感覚として、「本当にテレビ局の人気がなくなっているのだな」と強く感じさせる出来事でした。
テレビ局の就職市場と将来性について考察するビジネスパーソンのイメージ
結論
元NHKアナウンサーである今道琢也氏の具体的な経験と、就職人気ランキングという客観的なデータは、日本のテレビ業界が直面している「就職人気凋落」という深刻な現実を浮き彫りにしています。若者たちの間でテレビへの関心が薄れている「テレビ離れ」が叫ばれる中、それがそのまま就職市場における「テレビ局離れ」として表面化している実態が伺えます。この傾向は、単なる一過性の現象ではなく、メディアを取り巻く環境の変化、特にデジタル化の進展と、それに伴う若者の価値観やキャリア観の変化を反映していると考えられます。テレビ業界は、この新たな時代に即した変革を迫られていると言えるでしょう。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: かつては人気だったテレビ局への就職希望者が「ゼロ」に…元NHKアナウンサーが肌で感じた“異変”とは
- 今道琢也 著: 『テレビが終わる日』(新潮新書)