中国政府が、新車登録から6カ月未満の車両の中古車取引を禁止する方向で検討を進めている。この動きは、市場に「ゼロキロ中古車」と呼ばれる現象が急増していることへの対応であり、中国の電気自動車(EV)市場における深刻な供給過剰と行き過ぎた販売ノルマがその背景にある。政府は、この問題が市場秩序を乱し、価格構造を歪めていると見ており、自動車産業の健全な発展を目指すための制度改善を急いでいる。
「ゼロキロ中古車」現象の実態と市場への影響
「ゼロキロ中古車」とは、出荷後に一度も公道を走行していない、あるいは走行距離が極めて少ない新車が中古車として販売される現象を指す。これは、自動車ディーラーが販売ノルマを達成するため、割り当てられた新車をあたかも販売したかのように登録し、直ちに中古車として再登録して大幅な割引価格で販売することから生じる。消費者は新車を事実上中古車価格で購入できるため歓迎する一方で、ディーラーは販売実績を水増しし、さらに地方政府の中古EV補助金まで手に入れることができ、損害をほとんど被らない構造となっている。
この手口は市場秩序を乱し、価格競争を不健全なものにしていると批判されている。中国証券報によると、吉利汽車グループの高級EVブランド「Zeekr」は、同様の手法で新車を大幅に値引き販売した疑いが浮上している。また、EVスタートアップの合衆新能源汽車が展開するNETAブランドは、2023年1月から昨年3月にかけて、納車前の車両を事前に保険に加入させることで、販売実績を6万台以上も水増ししたと指摘された。こうした「小細工」が市場の透明性を損ない、価格形成を歪める原因となっている。
中国EV市場の過酷な競争と政府の介入
中国のEV市場は、現在129ものブランドが乱立し、深刻な供給過剰状態にある。今年6月末時点での全国乗用車在庫台数は332万台に達し、同月の乗用車の平均割引率は25%を記録するなど、価格競争は激化の一途を辿っている。EV最大手の比亜迪(BYD)も、在庫処分とシェア拡大のため、今年5月から6月にかけて約20モデルの価格を最大30%以上引き下げたが、これにより当局からの警告を受ける事態となった。
こうした状況を受け、中国工業情報化省や商務省などは、6月末にBYDや東風汽車といった主要メーカー、そして中古車販売プラットフォームの関係者らを緊急に招集した。「自動車産業の骨身を削る競争を防ぐ制度改善案をまとめる」と表明されており、政府が市場の健全化に強い意欲を持っていることが示唆された。新車登録後6カ月未満の車両の中古取引禁止検討は、この包括的な市場是正策の一環と見られている。
中国のEV市場における供給過剰を示す電気自動車の風景。ゼロキロ中古車問題の背景。
まとめと今後の展望
中国政府が検討している新車登録後6カ月未満の中古車取引禁止は、「ゼロキロ中古車」という特殊な現象を通じて露呈したEV市場の供給過剰と不健全な競争状態に対する明確な警鐘である。この措置は、ディーラーによる不透明な販売実績の水増しや、市場価格の歪みを是正し、自動車産業全体の持続可能な成長を促すことを目的としている。今後、政府の介入が中国EV市場の秩序をどのように回復させ、健全な競争環境を構築していくのか、その動向が注目される。
参考資料
- 中国自動車工業協会(CAAM)発行雑誌「自動車縦横」
- 中国証券報
- 朝鮮日報日本語版