日本のオーバーツーリズムが地方にもたらす課題:美瑛の白樺伐採が象徴する観光公害

かつて北海道美瑛町の住民にとって、何キロも歩いても人に会わないことは珍しくありませんでした。しかし、その静寂は今や過去のものです。人口約9000人のこの町は、インスタグラムや中国のSNS「小紅書(RED)」を介して一躍有名になりました。美しい田園風景の写真が拡散されるにつれ、スマートフォンを構えた観光客が波のように押し寄せたのです。私有地への無断侵入が多発したため、町は多言語での警告を出し、監視カメラを設置しましたが、観光客の増加は止まらず、バスでの来訪も増えました。ある道路区間では、白樺並木を撮影しようと観光客が立ち止まり、しばしば交通渋滞を引き起こす事態に発展しました。2025年1月、美瑛町は変化の必要性を決断。地元の農家と協議の上、樹齢数十年におよぶ約40本の白樺並木を伐採しました。町は作物の日照を遮るためと説明しましたが、一部住民は観光客抑制策ではないかと見ています。

富士山周辺の目隠しフェンスとオーバーツーリズム対策富士山周辺の目隠しフェンスとオーバーツーリズム対策

観光の質を求める美瑛町の試み

美瑛町は観光客の来訪そのものを拒否しているわけではありません。バスで大勢が押し寄せ、数枚の自撮り写真を撮ってすぐに次の「SNS映えスポット」へ移動するのではなく、ひとところに滞在し、地域でお金を使ってくれるような質の高い観光を望んでいます。美瑛町商工観光交流課の成瀬弘樹氏は、「現在、道路には観光客が溢れ、多くの問題が発生しています。小さな町にとって、観光客にマナーを理解してもらうのは特に難しいことです」と語っています。美瑛町の白樺伐採は、外国人観光客の急増に伴い日本が直面しているオーバーツーリズムの問題を象徴する出来事となっています。

日本全国で顕在化するオーバーツーリズム問題

昨年、日本を訪れた外国人観光客数は、円安や新たな高級ホテル、充実したレストラン、歴史豊かな観光地に惹かれ、過去最高の3700万人を記録しました。これは2023年比で約50%の増加です。外国人観光客は日本の経済を支える一方で、日本に深く根付いた「おもてなし」の伝統を疲弊させてもいます。海外からの訪問者が急増する中、一部の日本人は国内の人気観光地を避ける傾向にあります。観光客の増加により、不動産、ホテル、レストランの価格が高騰しているためです。観光の恩恵に疑問を呈し、「外国人の過剰受け入れ」に反対する新興政党「参政党」は、今年の参議院選挙で予想外の好成績を収めました。

持続可能な観光への課題

美瑛町の事例は、オーバーツーリズムが日本の地方にもたらす具体的な影響と、それに対する地域社会の苦悩を浮き彫りにしています。経済的恩恵と引き換えに、住民の生活環境の悪化、文化的な摩擦、自然環境への負荷といった観光公害が深刻化しているのです。今後、日本が直面する課題は、単に観光客数を増やすだけでなく、いかにして持続可能で、地域住民と観光客双方にとって豊かな観光を実現していくかにあります。


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