習近平氏が優先した「抗日戦争勝利80年」アピール:中国共産党の“正統性”強化戦略

日本では今年、「戦後80年」という節目を迎えますが、中国ではこれを「抗日戦争勝利80年」として、戦勝国の立場を大々的にアピールする動きが活発化しています。特に注目されるのは、中国政府がこの記念事業を通じて発信しようとしているメッセージと、その背景にある真の狙いです。今月7日、日中戦争の発端となった盧溝橋事件から88年を迎えたこの日、習近平国家主席が訪れたのは、日中戦争の激戦地とされてきた場所でした。この訪問が、同時期にブラジルで開催されたBRICS首脳会議への出席よりも優先されたことは、現在の習近平指導部が「抗日戦争勝利80年」のアピールにいかに力を入れているかを明確に示しています。

中国指導部の「抗日戦争勝利80年」重視の背景

習近平国家主席は、現地訪問で「ここを訪れることができ感無量です。精神的な洗礼を受けた気持ちです」と述べ、この歴史的場所の重要性を強調しました。先週現地を訪れた際も、多くの市民が献花に訪れ、その中には「習近平国家主席の足跡をたどりに来ました。抗日戦争の精神を継承すべきだと思います」と語る市民や、「共産党が戦いを指揮し、日本軍を打ち破って中国を解放したのです」と主張する退役軍人の姿が見られました。中国政府は先週、海外メディアを対象に「抗日戦争勝利80年」をアピールするメディアツアーを主催し、その意義を内外に発信しました。

習近平国家主席が盧溝橋事件の地を訪問し、抗日戦争勝利80年を強調習近平国家主席が盧溝橋事件の地を訪問し、抗日戦争勝利80年を強調

中国共産党の「正統性」確立への思惑

記念館のガイドは、「共産党軍と民衆は抗日戦争勝利に向け、歴史に燦然と刻まれる貢献を果たしました」と強調し、中国共産党がいかに抗日戦争で重要な役割を果たし、現在の中国を築き上げたかを力説しました。さらに、中国政府が設定した記者会見では、抗日戦争に参加した96歳の元兵士、温雲甫さんが「個人的意見ですが、抗日戦争で国民党は大きな役割を果たしませんでした。主に共産党が中国人民を率いて8年間の日本との戦争を戦い、勝利をおさめたのです」と述べ、国民党ではなく共産党こそが勝利に貢献したと強調しました。

こうした言葉の背景には、中国共産党の「正統性」を強化しようとする意図が強く滲んでいます。現在、中国ではかつてのような急速な経済成長が見込めず、国民の間には不満が広がっています。このような状況下で、「日本に勝った共産党軍」という建国の物語の原点を繰り返し語ることで、共産党統治の正統性を強調し、国民の求心力を高めようとしているのです。

今後の中国の動向と「勝利」の利用

習近平主席は子どもたちに対し、「努力を重ね、奮起し、堂々とした誇り高い中国人になりなさい」と語りかけ、愛国心を鼓舞しました。中国政府は、9月に予定されている大規模な軍事パレードなど、「抗日戦争勝利」に関連する一連の行事を、国威発揚と権力基盤固めにつなげる絶好の機会と位置づけ、今後も積極的に利用していく方針です。

中国共産党は、歴史の解釈を自らの統治の正当性を主張する強力なツールとして利用し、現在の内外の課題に対応しようとしています。これは、中国の政治体制と国民統合のあり方を理解する上で重要な要素であり、今後の日中関係や国際情勢にも影響を与え続けるでしょう。


参考文献