最寄り駅へ向かう道すがらに現れる、複数の政党ポスターがひしめき合う倉庫の壁面。広告観察を定点観測地とする小林美香氏は、著書『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地』(朝日新書)の中で、ここに表現される「価値観」を考察することで、「おじさんの詰め合わせ」状態からの脱却と、未来の政治を思い描く手がかりが得られると論じます。本記事では、政党ポスターの多様なメッセージと、それが示す日本の政治・社会の深層に迫ります。
「オールスター」状態の壁面が示す激しい競争
長さ10メートルを超える広大な倉庫の壁面は、人通りの多い道路に面しており、常に複数の政党ポスターが競い合うように掲出されています。衆議院議員の尾辻かな子氏によれば、このような多様な政党のポスターが貼られた壁面は、選挙関係者の間で「オールスター」と呼ばれるそうです。中には時間が経過して色褪せたものもありますが、多くの政党は新しいポスターができるたびに貼り替えを行い、場所取りの激しさを物語っています。3メートルほどの高さに貼られたポスターもあり、壁面全体が視覚的なコラージュ作品のようにも見えます。
東京都板橋区の倉庫壁面にひしめき合う複数の政党ポスター。「オールスター」と称される選挙ポスターの競争状況を示す。
道行く人の視線を惹きつけるため、各党は写真だけでなく、画面の色使い、文字のデザイン、キャッチコピーやスローガンを含むレイアウトなど、様々な要素でしのぎを削っています。これらの政治広告を読み解くことは、各政党の選挙戦略と有権者へのメッセージを理解する上で非常に有効な手段となります。
政党ごとの戦略とメッセージの特徴
政党ポスターに見られるメッセージは、その政党の理念やターゲット層を明確に反映しています。たとえば、日本維新の会のポスターは、縦書きで大きく記された「維新」の二文字が力強さを印象づけ、「身を切る改革、実行中。」といった威勢のいいキャッチフレーズで、改革への断固たる姿勢を強く訴えかける傾向があります。一方、公明党のポスターは、落ち着いた配色と明朝体を主体としたフォントを使用し、全体として安定感と信頼性を印象づけるデザインが特徴的です。
近年設立された政党のポスターでは、既存政党への対抗意識から、煽り表現を多用する傾向が見られます。国民民主党のポスターは、炎のようなオレンジと黄色のグラデーションを背景に、代表である玉木雄一郎氏の大きな身振りと挑むような表情が、熱意と挑戦的な姿勢を強く印象づけます。また、参政党のポスターは、「日本をなめるな」という威嚇するようなフレーズとイラストが目を引き、国民民主党と同様に煽情的な表現で有権者に訴求しています。
2024年に掲出された国民民主党と参政党の選挙ポスター。炎のような背景や挑発的な文言で既存政党への対抗意識を表現している。
文言を主体とするポスターでは、特定の政策課題を強く打ち出すケースがあります。幸福実現党は「バラマキは増税のもと」と明確に減税を訴え、日本共産党は食料自給率向上、ジェンダー平等、気候危機といったテーマを掲げています。これらの政党は、連続してポスターを掲示することで、メッセージの繰り返しによる印象づけを図る選挙戦略を採用しています。
政治ポスターから読み解く社会の未来
政党の選挙ポスターは単なる告知物ではなく、その時代の政治的価値観、社会の動向、そして各政党が有権者に伝えたいメッセージが凝縮されたものです。小林美香氏の考察が示唆するように、ポスターの表現を深く分析することで、「おじさんの詰め合わせ」とされる旧来の価値観から脱却し、より多様な視点を取り入れた未来の政治のあり方を思い描く手がかりが得られます。これらの政治広告は、日本の政治がどのように変化し、多様な社会の要請にどう応えようとしているのかを映し出す鏡と言えるでしょう。
参考文献
- 小林美香 (2023). 『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地』. 朝日新書.