2024年7月30日午前8時半ごろ、ロシアのカムチャツカ半島付近でマグニチュード8.8の巨大地震が発生し、日本中が緊迫した状況に包まれました。気象庁は太平洋側を中心とした広範囲に津波警報・注意報を発令し、テレビ各局は放送内容を変更して「逃げて」という津波情報を繰り返し伝えました。多くの国民が炎天下の中、高台などへの避難指示に従いました。これは2011年3月11日に発生した東日本大震災の甚大な教訓を反映したものです。この津波警報は、鉄道や空の便、高速道路にも大きな影響を与えましたが、結果として国内では津波による犠牲者は出ず、大きな被害は発生しないまま、翌31日16時30分に全ての警報・注意報が解除されました。
太平洋沿岸での津波警報発令を受け、避難する人々の様子
津波警報解除後の「煽り過ぎ」発言とその波紋
津波による大きな被害がなかったことに多くの人が安堵する中、元航空幕僚長の田母神俊雄氏(77)が、自身のX(旧Twitter)で今回の気象庁の対応について疑問を投げかけ、物議を醸しました。田母神氏は津波警報解除後の31日午前6時51分に、「津波は本当に来たら怖い。しかし津波警報で新幹線や空の便が止まったり多くの人が避難するなど国民生活に大きな影響が出た。これは津波そのものの影響ではなく津波警報の影響なのだ。気象庁などが少し煽り過ぎなのではないかという気がした」と投稿しました。
しかし、実際には新幹線は「おおむね通常通り」運行しており、田母神氏の指摘には事実誤認が含まれていました。それ以上に問題視されたのは、国民の安全を最優先し、科学的データに基づいて迅速に警報を発令した気象庁に対し、「煽り過ぎ」「批判が出てくるのはやむを得ない」といった、無責任とも取れる発言をした点です。約44.7万人ものフォロワーを抱え、高い情報発信力を持つ同氏の発言は、多くの人々の反発を招きました。
「東日本大震災の教訓を忘れたのか」SNS上の批判が殺到
田母神氏の投稿に対し、X上では批判の声が殺到しました。フォロワーからは、「絶句 貴方完全に思考歪んでるよ 津波そのものの影響ではなく津波警波の影響なのだ、って当たり前やん 注意報とか警報を発令する意図をわかってなそうでビビるわ」「東日本大震災もう忘れたんですか?」「東日本大震災の教訓は?『100回逃げて、100回来なくても101回目も必ず逃げて』刻まれたはずだろ。神経疑うわ。気象庁のおかげで1〜2時間前に津波注意報や警報が知れた。海沿いの方は避難行動ができた」といった厳しい意見が相次ぎました。津波警報が空振りに終わったとしても、それは最悪の事態を避けるための適切な避難行動の結果であり、気象庁の科学に基づいた判断と情報伝達の重要性を強調する声が多く聞かれました。
釈明投稿と「第二波以降」の重要性
多数の批判を受け、田母神氏は最初の投稿から約2時間半後に、「津波警報は当初の段階では状況がよく分からないので最悪を考えて警報を発することが必要だと思います。しかしその後の状況を見て、今回の件ではもう少し早く警報などを解除してもいいのではないかと思った次第です」と釈明の投稿を行いました。
しかし、気象庁は今回の津波警報発令中、「津波は長い時間繰り返し襲ってくる。第一波より第二波以降が大きい可能性もあり、警報が解除されるまでは安全な場所から離れないように」と繰り返し呼びかけていました。東日本大震災では、千葉県旭市において、第一波や第二波で津波が終息したと思い避難先から帰宅した人々が、最も高かった7.6mの第三波に襲われ、多数の死者・行方不明者が出たという悲劇的な事例があります。このような経験があるため、気象庁は最大限の注意を払って警報解除の判断を下します。田母神氏の「状況を見て」「もう少し早く」といった抽象的で科学を無視したような発言は、再び批判の的となりました。「誰かの主観とか感性で決められるものじゃない」「基準を緩めろと言っていることになるのは理解できてますか?」といった声が寄せられ、防災における科学的根拠に基づいた慎重な判断の重要性が改めて浮き彫りになりました。
災害の教訓を忘れず、的確な情報伝達の尊重を
今回の津波警報を巡る一連の騒動は、自然災害の予測が困難であること、そして過去の悲しい経験から得られた教訓がいかに重要であるかを再認識させるものでした。気象庁の警報は、常に国民の生命と安全を最優先に考え、科学的な検証に基づいて発令されています。たとえ空振りに終わったとしても、それは最悪の事態を回避できた証であり、その判断を尊重する姿勢が求められます。
特に、東日本大震災の経験がまだ新しい日本において、多数の命が失われた悲劇から導き出された教訓を忘れてはなりません。私たちは、不確実な情報や個人の主観的な意見に惑わされることなく、常に公的機関が発信する正確で信頼性の高い情報に基づき、適切な防災行動をとる意識を高く持つことが極めて重要です。