日本人とドイツ人:なぜ「時間の使い方」と「幸福感」にこれほど差があるのか

朝の満員電車、長引く会議、終わらない残業──多くの日本人が「自分の時間が取れない」と悩む一方で、ドイツでは「時間がない」という言葉を耳にすることは稀です。なぜ、これほどまでに時間の感じ方や生活の質に違いが生まれるのでしょうか?『データブック国際労働比較2024』によると、日本人はドイツ人より年間31日以上も多く働いていますが、時間あたりの賃金はドイツの約半分に過ぎません。同じ技術大国であり、経済レベルも近いとされる日本とドイツ。この顕著な差について、ドイツ在住40年の松居温子氏(ダヴィンチインターナショナル代表取締役)の著書『9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方』を参考に解説します。

日本人の多忙な生活とドイツ人のゆとりある時間の対比日本人の多忙な生活とドイツ人のゆとりある時間の対比

日本人の「時間が足りない」という現実

日本では、社会人の大半が「自分の自由な時間がない」と感じています。これは社会人に限らず、学生時代から部活動、受験勉強、習い事などに追われ、自由時間を犠牲にしてきた結果として多くの日本人が経験してきたことです。そして、その忙しさは大人になっても変わらないのが実情でしょう。

朝は慌ただしく支度し、満員電車の中でスマートフォンから情報を得る。会社に着けば、軽く同僚と挨拶を交わし、すぐに仕事に取り掛かります。長引く会議や次々に舞い込むトラブルへの対応に追われるうち、気づけば終業時間を過ぎ、未処理の仕事を片付けるための残業が常態化しています。帰宅すれば疲れてすぐに眠りにつき、休日も疲労困憊でベッドで一日を過ごす。いわゆる「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「時短」といった効率化に取り組んでみても、なぜか「やらなければならないこと」は一向に減る気配がありません。「一体いつになったら『本当にやりたいこと』ができるのだろう」と悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。さらに、定年退職して急に時間ができても、何をすれば良いか分からない、あるいは病気で好きなことができないという人生を送る人も周りに見られます。

ドイツ人の「ゆとりある時間感覚」とは

一方で、私が長年住んでいるドイツでは、「時間がない」という人には滅多に出会いません。巷にあふれる情報からも、ドイツの社会人が時間に追われ、大変な思いをしているという雰囲気は全く感じられません。多くの日本人はドイツ人に対して「真面目で勤勉」というイメージを持ち、自分たちと同じように忙しく働いていると思っていることでしょう。ドイツと日本は同じく技術大国であり、経済レベルも同程度です。国土面積や人口はドイツの方がやや小規模という印象を持つ人が多いかもしれませんが、そのために日本人と同様に、仕事が人生の中心で、自由な時間が取れない生活をしているように見えるかもしれません。

しかし、実際のドイツ人は、ゆったりと、そしてたっぷりと自分たちの人生における自由な時間を満喫して生きています。せかせかと時間に追われているような印象は全くありません。朝も機嫌良く出勤し、終業時間になればすぐに帰宅します。帰宅後は家族や友人たちと一緒に食事をしたり、サッカーや合気道、オーケストラなどの習い事を心ゆくまで楽しんでいます。

経済指標から見る日独の差異と幸福度

それでいてドイツ国内の経済は好調であり、生産性はヨーロッパの中で比較的安定しています。『データブック国際労働比較2024』によると、2022年の国内総生産(GDP)はヨーロッパで1位を誇りました。日本と比較すると、その差はわずか約1.06で、2023年にはドイツが日本のGDPを抜き、世界第3位に浮上しました。もちろん、ドイツ経済や政治にも様々な課題が存在することは言うまでもありません。

それでも、街を歩くと、ドイツ人のほうがはるかにせかせかせず、幸せそうに過ごしているように感じられます。特に街中で手をつないでお買い物をする年配の夫婦の姿を見ると、将来に対する希望を感じます。これは単なる文化の違いだけでなく、若い頃から共に時間を過ごしてきた結果、良好な夫婦関係が続いている証拠であり、実際に幸せなオーラが漂っています。同じ先進国に分類されるはずの日本とドイツなのに、国民の時間の感じ方や幸福そうな雰囲気は、これほどまでに異なるのは一体なぜなのでしょうか。


参考文献

  • 松居温子. 『9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方』.
  • 『データブック国際労働比較2024』.