57歳になる西村まこ氏は、日本で初めて当局から認定された「女ヤクザ」として知られています。その壮絶な過去から更生し、現在は多くの元受刑者や元薬物中毒者の社会復帰を支援する活動に尽力しています。岐阜・柳ヶ瀬を拠点とする彼女の活動は、警察沙汰が日常茶飯事となる困難を伴いますが、西村氏自身の経験と強い意志が彼らを支え続けています。絶縁状態にある二人の息子との再会を願いながら、社会貢献に励む西村氏の密着ドキュメントから、その軌跡と現在の取り組みを深掘りします。
壮絶な生い立ちと極道への道
岐阜県随一の歓楽街、柳ヶ瀬の一角に、築40年近いマンション「ロアビル」があります。このマンションの1階にある共有スペースで、元「女ヤクザ」の西村氏が元受刑者らと共に街の清掃ボランティア活動を行っています。この活動は1年を超え、地元ではすっかりお馴染みの光景となりました。住民からは「きれいにしてくれてありがとう」「街がやっぱりきれいでないと助かります」といった感謝の声が寄せられています。
西村氏自身も元受刑者であり、「過去の罪を思うと、すごい申し訳ないことをしたなと…。過去をいかして、人を更生させてあげるっていうことは、自分たちにしかできない。悪い人たちの気持ちが分からないから」と語ります。
1966年生まれの西村氏は、愛知県庁の幹部職員だった父親を持ち、親戚には東京大学出身の裁判官がいるという「厳格な家庭」で育ちました。しかし、中学2年の夏、人生は一変します。勉強を強いられず、夜遊びも咎められない友人の家に通うようになったことで、非行の道へ。次第にエスカレートし、二度の少年院送致を経て、ついには極道の道へと進みます。
「ケンカが強かったのと、あとイレズミですよね。ヤクザやる前から入っていたので。『女にしておくのはもったいない』という噂が流れて、『住吉』から声がかかった」と当時を振り返る西村氏。20歳にして、関東最大の指定暴力団・住吉会系の組員となり、薬物や拳銃の売買にも関与したとされます。
若い頃に非行に走り、入れ墨を施した西村まこ氏
組に入って早々、別の組員が犯した失態の「落とし前」として、左手の小指を失う経験もしました。その時の痛みよりも、「血の気が全部下に引いた」という衝撃の方が大きかったと語ります。
前例なき「女ヤクザ」からの脱退と苦難
傷害罪で執行猶予中に薬物の所持で逮捕され、刑務所で2年半の服役を経験した西村氏。出所の日、自分が前代未聞の「女ヤクザ」であったことを改めて痛感します。仮釈放のためには組の脱退届の提出が必要でしたが、「普通だったら1時間くらいで書けるものを半日かかって書かされた。(時間がかかったのは)日本初で例がないから。女子刑務所で始まって以来の脱退届だと言っていた」というほど、その存在は異例中の異例でした。
しかし、暴力団を脱退した後も西村氏の苦難は続きました。数年前、知人から預かった元プロボクサーの男の生活態度を戒めたところ、暴行を受け、一時瀕死の状態に。この出来事以来、重い後遺症に苦しむことになります。全てを捨てて出家し、仏門に入ろうかと悩んでいた矢先、西村氏の人生に新たな転機が訪れます。
更生支援活動への転身と新たな使命
その出会いは、かつて山口組の四代目組長の側近を務め、引退後は元犯罪者らの更生支援を手助けする「五仁會(ごじんかい)」を姫路市に設立し、数々の表彰を受けてきた竹垣悟氏(73歳)との共演でした。竹垣氏は西村氏を「まっすぐ何をするのにもまっすぐ。なんでこんな子が女ヤクザしていたかって思うようなところがある」と評し、2023年に彼女を五仁會の岐阜支局長兼広報部長に任命します。
更生支援に取り組む元女ヤクザ、西村まこ氏(57歳)
この任命を「いままでの人生の転機」と語る西村氏。「立場が逆になった。いまは人を更生させる立場。(竹垣)会長と出会わなかったらどうなっていたか分からない。また、刑務所に行っていたかもしれない」と、竹垣氏との出会いが彼女の人生を大きく変えたことを強調します。
現在、西村氏が拠点とするロアビルには、多くの元受刑者や元薬物中毒者らが暮らし、社会復帰を目指しています。彼らの中には、過去の罪と向き合い、西村氏と共に清掃ボランティアに参加することで、社会への恩返しを実感する者も少なくありません。
家族との絆、そして未来への願い
西村氏には、ヤクザの母親としての過去を見限って10年近く絶縁状態になっている二人の息子がいます。「会って謝りたい」という強い願いを胸に、彼女は更生支援活動に励んでいます。自らの過去と向き合い、社会貢献を通じて償いを行うことで、いつか息子たちとの絆を取り戻したいと願う西村氏の日々は、困難を伴いつつも、確かな希望に満ちています。
結論
西村まこ氏の物語は、極道の世界から更生支援の道へと転身した、まさに劇的な人生の軌跡を示しています。壮絶な過去、そしてそれに伴う困難や苦痛を乗り越え、彼女は自らの経験を「悪い人たちの気持ちが分かる」強みとして、同じ境遇にある人々の社会復帰を支えています。家族との和解という個人的な願いを抱きながらも、西村氏の活動は、社会の光の当たらない部分に希望をもたらす重要な役割を担っています。彼女の存在は、どのような過去があろうとも、人は変わり、社会に貢献できるという強いメッセージを私たちに投げかけています。
参考文献
- Yahoo!ニュース (2024年). 西村まこ氏に関する記事.