吉田圭秀統合幕僚長、異例の東大卒トップが退任 2年4カ月の功績と「国を主語に」のメッセージ

自衛官の「制服組」の頂点に立ち、国の防衛を牽引してきた統合幕僚長の吉田圭秀氏(62)がこの度退任しました。歴代統幕長で初の東京大学卒という異色の経歴を持つ吉田氏は、2年4カ月の在任期間中、自衛隊の統合運用強化と、同盟国・同志国との多層的な協力関係の構築に尽力しました。「『わが国』を主語に主体的、自律的に活動してほしい」と後輩たちにエールを送り、その職を後にしました。

歴代初の東大卒統幕長、2年4カ月の軌跡

2006年の統合幕僚監部創設以来、防衛大学校出身者が就くのが不文律とされてきた統幕長のポストに、一般大学出身者として初めて就任した吉田圭秀氏。1986年に陸上自衛隊に入隊後、北海道や熊本での部隊勤務に加え、外務省や国家安全保障局への出向も経験しました。陸上幕僚長としては、国家安全保障戦略を含む安保関連3文書の改定にも深く関与し、日本の安全保障政策の根幹を担ってきました。

宮古島ヘリ墜落事故への「慟哭」、そして使命感

統幕長に着任して間もない2023年4月、沖縄県宮古島沖で発生した陸上自衛隊ヘリコプターの墜落事故は、吉田氏にとって忘れられない出来事となりました。搭乗員10人が死亡・行方不明となったこの事故について、退任前最後の記者会見で彼は「告白するが、官舎に帰って慟哭した」と心情を吐露しました。これは、捜索や救難活動を続けるために気持ちを切り替える必要があったからだと述べ、「亡くなった彼らに認められる仕事ができているのか、常に問い続けてきた」と、深い責任感と未完の思いを明かしました。

「わが国を主語に」主体性と多層的ネットワークの構築

吉田氏が統幕長に就任した2023年3月は、米中対立の激化やロシアによるウクライナ侵攻など、「国際情勢の大きな転換期」にありました。こうした中、彼は「インド太平洋地域でも欧州でも日本に対する期待値が上がっていると肌で感じる」と述べ、他国に米中どちらかを選ぶよう迫る状況は最も困難な選択肢であると指摘しました。そして、日本が主体性を持って多層的なネットワークを構築していくことの重要性を強調しました。各国の参謀総長たちとの交流を重ね、防衛協力・交流の礎を築いたことは、「生涯の宝となる絆や友情を結ぶことができた」と振り返っています。

統合作戦司令部創設への尽力と次世代へのメッセージ

在任中の印象的な出来事の一つとして、吉田氏は今年3月の「統合作戦司令部」創設を挙げました。これは陸海空自衛隊を一元的に指揮・統制する新組織であり、米軍との連携強化もその狙いとされています。2006年の統合幕僚監部創設以来の大規模な組織改編に対し、吉田氏は定年を延長してまで尽力しました。退任の会見では、後任の航空幕僚長である内倉浩昭空将(60)にバトンを託し、「わが国に対して戦争が起きないような環境に、一歩でも二歩でも近づける努力を、我々はバトンを渡しながら永久に続けていく。そこに尽きる」と、平和への絶え間ない努力を次世代に託すメッセージを発しました。

退任行事では、「背広組」のトップである増田和夫事務次官(61)と共に花道を歩き、「制服組」と「背広組」が連携することの重要性を改めて印象づけました。最後に「本当に長い間、お世話になりました。日本の防衛を頼みます」と力強く語り、防衛省を後にしました。吉田氏の在任期間は、激動の国際情勢の中で日本の防衛力を強化し、国際的な信頼を築くための重要な一歩となったと言えるでしょう。

参考資料

防衛省を退任し、花束を手にほほ笑む吉田圭秀統合幕僚長ら防衛省を退任し、花束を手にほほ笑む吉田圭秀統合幕僚長ら