「愛子天皇待望論」に立ちはだかる日本会議新会長・谷口智彦氏の視点と皇位継承の行方

女性・女系天皇を巡る皇位継承論議が国会で継続する中、「愛子天皇待望論」が高まりを見せています。しかし、この動きに強力な障壁として現れたのが、保守系団体である日本会議の新会長、谷口智彦氏です。皇室史に詳しい宗教学者の島田裕巳氏は、谷口氏が「リベラル化した自民党」を非難し、男系男子による皇位継承を堅持すべきだと主張している点を指摘しています。日本会議の新たなリーダーが皇位継承問題にどのような影響を与えるのか、その背景と今後の動向に注目が集まります。

日本会議の新会長が掲げる「急務」とは

日本会議の公式サイトには、2025年7月18日付で谷口智彦氏による「会長就任のご挨拶」が掲載されました。その中で谷口氏は、高浜虚子の句「去年今年貫く棒の如きもの」を引用し、日本会議の使命が「日本の心棒を折らずに後代に継承し、日本の国柄を守り、それをさらに強化していくこと」にあると述べています。ここでいう「国柄」とは、戦前の文脈における「国体」、すなわち天皇を中心とした政治体制を指すものと考えられます。

谷口氏は、日本会議が最優先で取り組むべき「急務」として二つの課題を挙げました。一つは「旧宮家で皇統を引く男性の方々に皇室へ入っていただく所要の改正」の実現、もう一つは自衛隊に明確な位置づけを与える憲法改正です。特に皇室関連の課題については、令和七年通常国会での実現が期待されながら先送りになったと述べ、旧宮家を皇族の養子とする案の実現に日本会議の活動の重点を置くことを宣言しました。この方針は、女性天皇や女系天皇を認めない男系男子による皇位継承を堅持する立場に直結します。

第23回世界災害救急医学会」開会式に出席し、初めて国際会議で挨拶される天皇皇后両陛下の長女愛子さま。皇位継承問題と女性皇族の役割。第23回世界災害救急医学会」開会式に出席し、初めて国際会議で挨拶される天皇皇后両陛下の長女愛子さま。皇位継承問題と女性皇族の役割。

谷口智彦氏の経歴と日本会議就任の背景

谷口智彦氏は東京大学法学部を卒業後、日本朝鮮研究所(現在の現代コリア研究所)の研究員としてキャリアをスタートさせました。同研究所が日本共産党党員が多いことで知られる一方、谷口氏の初期の論考は、南北朝鮮との関係について客観的な視点から論じられていると評されています。

その後、谷口氏は東京精密を経て日経BPに勤務し、欧州特派員を務めました。外務省へ転身後は報道官を務め、第2次安倍政権では内閣官房参与として安倍晋三首相のスピーチライターとして活躍しました。これらの経験は、谷口氏が日本の政治、外交、そして保守思想の形成に深く関与してきたことを示しています。

日本会議では、前会長の政治学者・田久保忠衛氏が2024年1月に90歳で逝去した後、会長職が空席となっていました。谷口氏は、安倍元首相が銃弾に倒れた後、日本会議の都道府県本部や支部で精力的に講演を行い、機関誌である『日本の息吹』にも頻繁に寄稿していました。こうした活動が評価され、今回、日本会議の新会長に就任する運びとなった模様です。

日本会議新会長の谷口智彦氏、外務省在籍当時の写真。安倍政権でスピーチライターを務めるなど、保守政治に深く関与。日本会議新会長の谷口智彦氏、外務省在籍当時の写真。安倍政権でスピーチライターを務めるなど、保守政治に深く関与。

皇位継承論議の今後の行方

谷口智彦氏の日本会議会長就任は、皇位継承を巡る論議に新たな局面をもたらす可能性を秘めています。「愛子天皇待望論」と、日本会議が推進する旧宮家からの男系男子復帰案という二つの流れが、今後さらに明確に対立する構図となるでしょう。谷口氏が掲げた「急務」の実現に向けた日本会議の具体的な活動が、国会での議論や世論にどのような影響を与えていくのか、皇室の将来を考える上で重要な焦点となります。

参考文献