「老害」と呼ばれたくないミドル社員たち:尊重されない時代の働き方と企業の責任

「老害」という言葉が飛び交い、「働かないおじさん」といったレッテルが社会に浸透する中で、中高年社員の排除が公然と進められています。平成以降、希望退職や非正規雇用の拡大、さらには「追い出し部屋」といった非人道的な措置までが、コスト削減の名の下に横行してきました。しかし、この問題の本質は個人の能力や意欲にあるのではなく、むしろ企業経営の冷酷な思想と、人を使い捨てるかのような経営改革にこそ根ざしているのではないでしょうか。本稿では、この時代のミドル社員が直面する現実と、そこから生まれる新しい働き方について考察します。

なぜ「新世代型中高年」は軽んじられるのか?

現代において「新世代型の中高年」が軽んじられる存在となってしまった背景には、バブル崩壊後の大規模なリストラブームが深く関わっています。かつては、松下幸之助が「一人と言えども解雇したらあかん」と述べ、トヨタ自動車の奥田碩氏も「解雇は企業家の最終手段」と警鐘を鳴らすなど、雇用の安定は企業の社会的責任とされていました。しかし、平成の経営者たちは、短期的なコスト削減を最優先し、「無駄をなくせ!」のスローガンのもと、リストラと成果主義を推進しました。この動きは、「階層組織において誰もが無能レベルまで昇進する」というピーターの法則を無視した愚行であり、「リストラ(事業再構築)」という言葉の意味を歪め、「解雇」を隠蔽する便利な隠れ蓑として利用されたのです。

「老害」のレッテルを貼られがちな中高年社員のイメージ「老害」のレッテルを貼られがちな中高年社員のイメージ

「リストラ」という名の解雇とコストカットの現実

厚生労働省の「産業労働事情調査」によれば、1992年から94年にかけてリストラを行った事業所の割合は11.7%でしたが、1998年から2000年には17.7%に上昇しました。日本労働研究機構の調査では、1997年から1999年度に調査対象企業の30%にあたる76社で正規従業員の削減が実施され、1999年度には75社が実施するなど、年々その規模が拡大したことが明らかです。この期間には、従業員数の10~20%、あるいは20%以上を削減する大規模なリストラも少なくありませんでした。経営者たちは、これに飽き足らず、新卒採用を大幅に減らし、低賃金で解雇しやすい非正規雇用を増やすという、即効性のあるコストカット策を繰り返したのです。

非人道的な「追い出し部屋」の実態と社会の反応

そして、このコストカットの極みとして生まれたのが、社員たちが「追い出し部屋」と呼んだ部署です。これは表向きは業務命令ですが、その実態は働く人の尊厳を傷つけ、精神的な不安を強いる非人道的なものでした。具体的には、窓際部署への異動、達成不可能なノルマの課、または単調な業務の強制などを通じて、自主退職に追い込むことを目的としていました。2012年12月31日には、朝日新聞が「赤字にあえぐパナソニックグループに、従業員たちが『追い出し部屋』と呼ぶ部署がある」と報じ、この問題は広く社会の注目を集めました。これを受け、メディアは一斉に企業の非道な行為を厳しく批判し、「追い出し部屋、許すまじ!」という声が社会全体に広がったのです。

結論:ミドル社員の価値再考と企業文化の構築

「老害」や「働かないおじさん」といったレッテルは、個人の問題に矮小化されがちですが、その根源には、バブル崩壊以降の日本企業が続けてきた過度なコスト削減と、成果主義を偏重する経営思想があります。中高年社員が持つ豊富な経験や知識は、本来、企業の貴重な資産となるはずです。彼らが軽んじられる現状は、企業文化の歪みと、短期的な利益追求に陥った経営者の責任に他なりません。日本企業は、中高年社員を「経験豊富なプロフェッショナル」として再評価し、その知見を活かせる新しい働き方や企業文化を構築すべきです。多様な世代が共存し、それぞれの強みを最大限に発揮できる環境こそが、持続可能な社会と企業の発展に不可欠と言えるでしょう。