転勤が転職・退職の引き金に?エン・ジャパン調査で判明した若年層の転勤離れ

企業の人事戦略において長年重要な要素であった「転勤」が、現代の労働市場において新たな課題を提示しています。人材サービス大手エン・ジャパンが実施した「転勤に関する実態調査」によると、望まない転勤は、従業員の「転職」ひいては「退職」を促す大きな要因となっていることが明らかになりました。特に若年層や女性の間で、転勤に対する強い抵抗感が浮き彫りになっており、企業側も新たな働き方の選択肢を検討する時期に来ていることを示唆しています。

転勤辞令で半数以上が「退職検討」 – 全年代で顕著な傾向

エン・ジャパンが運営するサイト「エン転職」のユーザー男女2303人を対象に2023年6月に実施された調査では、「今後、転勤辞令が出た場合、退職を検討するきっかけになりますか?」という質問に対し、全年代で半数以上が「なる」「ややなる」と回答しました。具体的には、20代では66%、30代では67%、40代以上でも54%に上り、年代を問わず転勤が退職意向に影響を与える可能性が高いことが示されました。

エン転職のアンケート結果を示すグラフ。転勤辞令が出た場合の退職検討意向が20代、30代で特に高い割合を示している。エン転職のアンケート結果を示すグラフ。転勤辞令が出た場合の退職検討意向が20代、30代で特に高い割合を示している。

転勤経験者の「転職検討」は20代で7割近くに – 実際の退職者も

過去に転勤を経験したことがあると回答した全体の20%のうち、転勤をきっかけに「転職を考えた」と回答したのは全体で44%に達しました。特に20代では69%、30代では61%と、若手層においてこの傾向が顕著です。実際に転勤が原因で退職した割合も、20代で25%、30代で15%と、20代では4人に1人が転勤を機に退職していることが判明しました。このデータは、若い年代ほど転勤に対する抵抗感が大きいことを裏付けています。

「待遇不利益」「キャリアへの影響」…転勤が招く多様な退職理由

退職理由としては、多岐にわたる声が寄せられました。「転勤先での待遇が事前の説明と違い、不利益を被った」(30代男性)といった待遇面での不満や、「転勤先の街を気に入り、定住するために退職した」(30代女性)といったライフスタイルの変化を求める声がありました。また、「転勤を断ったら待遇が悪くなった」(40代女性)、「一度転勤を引き受けると、また引き受けてくれると思われるようになる。転勤してくれる社員として、いつ離れても業務に差し支えのない仕事が優先的に回されるようになった」(40代女性)など、転勤が個人のキャリア形成や職務内容に長期的な影響を及ぼすことへの懸念も明らかになりました。

女性の転勤への抵抗感は男性を上回る

性別で見ると、転勤辞令が出た場合に退職を検討するきっかけになると回答したのは、男性が52%であったのに対し、女性は65%と、女性の方が転勤に対する抵抗感が大きいことが判明しました。これは、育児や介護、配偶者のキャリアなど、女性特有のライフイベントや家庭の事情が転勤の受容度に大きく影響している可能性を示唆しています。

リモートワークと「売り手市場」が変える若年層のキャリア観

調査を担当したエン・ジャパンの手塚伸弥さんによると、近年、20~30代の若手層は会社選びの段階で、転勤や勤務地の選択肢の有無を重視する傾向が強まっています。彼らは「転勤によって出世や昇給したい、転勤手当で所得を増やしたい、とはあまり思わず、転勤そのものを敬遠する傾向がある」と手塚さんは指摘します。

この背景には、コロナ禍でオンライン授業を経験した世代が、「わざわざ転勤しなくてもリモート勤務でいいじゃないか」と考えるようになった意識の変化があります。さらに、人手不足が続く現代の労働市場は、若い人材にとって「売り手市場」となっており、「転勤で昇給するより都心部で転職した方がいいと考える人が増えた」との見方を示しています。こうした状況を受け、「『総合職は全国転勤』という一択ではなく、転勤なし、エリア勤務など選択肢を増やす企業が増えてきた」と手塚さんは述べ、企業の働き方改革の重要性を強調しています。

今回の調査結果は、日本の労働市場における転勤のあり方、そして従業員のキャリア観やワークライフバランスに対する意識が大きく変化していることを浮き彫りにしました。企業は、優秀な人材の確保と定着のために、転勤制度の見直しや多様な働き方の導入を真剣に検討する必要があるでしょう。

参考資料

  • 朝日新聞社
  • エン・ジャパン株式会社