1995年に東京八王子市のスーパー「ナンペイ大和田店」で発生し、3人の女性が命を奪われた強盗殺人事件は、現在も未解決のままだ。この事件の捜査は長年にわたり続けられてきたが、近年、中国人組織が関与していた可能性を示す新たな証言が浮上している。ジャーナリストの原は、この強殺事件の実行犯と関係があるとされる中国人ホステスを追い、国際的な犯罪組織の影、そして捜査内部の複雑な状況に迫る。
錦糸町での“夜の蝶”追跡:中国人ホステスが握る鍵
事件の核心に迫るべく、ジャーナリストの原は「八王子スーパー3人強殺事件」の実行犯と関係がある中国人ホステスの情報を追い求めた。彼女がかつて勤務していた錦糸町の歓楽街を彷徨い、店名や源氏名を頼りに捜索を続ける。しかし、既に閉店した店が多く、同じ源氏名を持つ別の人物に遭遇するなど、捜査は難航を極めた。
そうした中で、原はついに「その女の子を知っていた」という別の中国人ホステスに行き着く。彼女は都内の有名私立大学に通いながら、学費を稼ぐために夜の街で働く苦学生であった。原が身分を明かし、必死の思いで捜し求める女性の断片的な情報提供を求めると、彼女は協力に応じ、その後の行方を探る手助けをしてくれた。この“夜の街”での地道な捜査活動の結果は、逐次、八王子署に設置された特別捜査本部に報告されていた。
八王子市スーパー「ナンペイ大和田店」の外観。1995年に3人の女性が犠牲となった強殺事件の現場となった場所。
「福建グループ」関与の衝撃証言とカナダ逃亡犯Kの存在
錦糸町での情報収集と並行して、特別捜査本部は、容疑者Kの交友関係から浮上したWへの取り調べを続けていた。Wはかつて中国でKや武田(別の容疑者)と覚醒剤ビジネスで協力関係にあった人物であり、現在のKの居場所を知っていた。
Wの情報によると、武田が覚醒剤で逮捕された直後、自身も麻薬ビジネスに関わっていたKは間一髪で中国からカナダへ出国し、その後、福建人支援コミュニティがあるトロントに移り住んだという。この元仕事仲間であるWはさらに、驚くべき証言を続けた。「Kは、『自分たちの福建グループの人間が八王子の事件をやったのは間違いない。実行犯はKの地元の先輩モトムラだと思っている』と語っていた」と。Wの証言は非常に詳細かつ迫真性に富み、事件の新たな側面を照らすものだった。
八王子スーパー強殺事件で命を落とした3人の被害女性の写真と、警視庁が公開した情報提供を求めるポスター。
国際捜査の壁:前例なきカナダからの身柄引き渡し交渉
Kの存在と「福建グループ」の関与を示す証言が得られたことで、捜査本部はカナダに逃亡したKの身柄確保を最優先事項とした。しかし、その実現には極めて高く厚い壁が立ちはだかっていた。現在のところ、Kに関して明確に立証可能な犯罪事実で、カナダ国内法でも重大犯罪に当たるものは、2002年4月に当時の彼女と日本を脱出する際に、実在する日本人名義で不正に取得した旅券を使用した旅券法違反であった。この名義人は、強盗団の一員として武田から紹介された日本人運転手であった。
問題は、日本とカナダの間に犯罪人引き渡し条約が締結されていない点にある。さらに、Kは中国人であり、中国政府も彼の送還を要求している状況だ。日本政府が旅券法違反容疑の逮捕状を基にカナダ政府に対し、身柄拘束と日本への引き渡しを求めるという試みは、過去に前例のない困難な交渉であり、その実現性は不透明だった。
捜査妨害の闇:内部からの圧力と情報提供者の喪失
Kに対する国際捜査と並行して、錦糸町での情報収集も続けられていたが、原の捜査意欲を削ぐような動きが起きた。彼が「捜査費を使って錦糸町の中国人クラブに入り浸り、ホステスに入れあげている」という心ない虚偽の噂が、警視庁内や記者クラブに流布されたのである。その出所は、特別捜査本部内の一部の捜査員であることが明白だった。
さらに深刻な事態は、協力者となっていた中国人ホステスの女性に及んだ。彼女が通う大学に「お宅に〜〜という中国人留学生がいるだろ。そいつは錦糸町のクラブで働いている。処分しなくていいのか」という怪電話がかかってきたのである。この嫌がらせに怯え、憔悴しきった彼女は、何も手につかない状態となってしまった。その状況を受け、捜査への協力を取り止め、本来の目的である勉学に集中してもらうことになった。この協力者は有能で誠実であっただけに、彼女を失ったことは錦糸町ルートの捜査にとって大きな痛手となった。当初、この怪電話は中国人強盗団による威嚇と考えられていたが、実際の通報者は、特捜本部で捜査を指揮する人物であったことが判明。捜査が順調に進む中、この錦糸町ルートの捜査を潰そうとする、捜査内部からの妨害工作があったのである。
終わりに
「八王子スーパー強殺事件」の捜査は、未だ多くの謎を残している。新たな証言によって「福建グループ」という中国人組織の影が浮かび上がり、カナダに逃亡した容疑者Kの存在が明らかになったものの、国際的な身柄引き渡しの困難さや、捜査内部からの妨害という複雑な壁が立ちはだかる。被害者と遺族の無念を晴らすためにも、この未解決事件の真相解明に向けた継続的な努力と、国内外の連携、そして何よりも公平かつ誠実な捜査が求められる。
参考文献
- 「福建グループが八王子の事件をやった」 – Yahoo!ニュース / デイリー新潮
- 【写真】亡くなった被害女性3人の素顔。警視庁は事件発生から30年が経過したいまも、新たにポスターを作成して目撃証言を求めている。 – デイリー新潮
- 第2回【捜査線上に浮上した「中国人」…強盗団リーダーが明かす「ナンペイ事件」の裏側 「強盗は少ない人数でやると失敗する。だから、失敗したんだ」】からの続き – デイリー新潮