石破首相退陣報道の波紋:大手紙の“誤報”と永田町の深層

政界は7月の激動を経て、8月に入ってもその余波が続いています。特に注目を集めているのは、大手全国紙が報じた石破茂首相(68)の「退陣」に関する報道の真偽とその後の展開です。一部の記者は、読売新聞が参院選直後に出した号外が「誤報」となったと指摘しており、永田町ではこの報道が引き起こした混乱と、石破首相の意図を巡る憶測が飛び交っています。本記事では、一連の退陣報道の経緯と、それが日本の政治情勢に与える影響について深く掘り下げていきます。

大手紙が報じた「石破首相退陣」の衝撃と食い違い

参院選(7月20日投開票)からわずか3日後の7月23日、読売新聞は「石破首相 退陣へ」と題した号外を発行し、国民に衝撃を与えました。この日、石破首相が「国難」と称していた米トランプ政権との関税交渉が電撃的に決着。日本は従来の25%から15%への関税引き下げに成功したものの、5500億ドルもの対米投資を約束し、その利益の9割が米国に流れるという内容でした。この交渉の評価はさておき、石破政権の懸念材料であった関税交渉が一応の決着を見たことで、読売新聞と毎日新聞は満を持して「石破首相退陣へ」と大々的に報じたのです。

しかし、両紙の報道には微妙なトーンの違いがありました。毎日新聞はウェブ版で「石破首相、退陣へ 8月末までに表明 参院選総括踏まえ」と速報し、8月に参院選の総括を行った上で身を引く考えを示唆すると伝えました。これに対し、読売新聞は号外で「石破首相退陣へ 参院選大敗引責 月内にも表明」と報じ、退陣時期を「月内」、つまり7月31日までと明記したのです。

読売新聞が「石破首相 退陣へ」と報じた号外の写真。参院選後の政局混乱を象徴する一枚。読売新聞が「石破首相 退陣へ」と報じた号外の写真。参院選後の政局混乱を象徴する一枚。

ところが、8月に入っても石破首相は依然として総理の座にありました。この事態を受け、冒頭の全国紙政治部記者は「これで読売新聞の例の号外は“誤報”になった」と声を潜めます。読売新聞社内でも大きな問題となり、政治部は「首相周辺を綿密に取材した結果」と釈明したものの、Xデーとされた7月31日を過ぎたことで、対外的な公式発表の必要性が問われる事態となりました。

「責任の取り方」を巡る石破首相の独自解釈

読売新聞の肩を持つわけではありませんが、石破首相が参院選期間中、周囲に「惨敗したら責任を取らなければいけないなぁ」と漏らしていたのは事実とされています。一般的には「責任を取る=辞任」と解釈されがちですが、どうやら石破首相の考える「責任の取り方」はこれとは異なっていたようです。

政治評論家の有馬晴海氏によれば、「選挙の開票中も石破さんは『私は権力にしがみつくわけではないと。私はそういう人間じゃないんですよ』と一部のメディアに話したらしいんです。それで辞めるんだと解釈され、読売は号外を出したようですね」と指摘します。有馬氏自身も石破首相が権力にしがみつく人物ではないと認識しつつも、「石破さんなりに党の将来のためを考えると、辞めることで状況が変わったりすることが許せないのでは」と、首相の複雑な胸中を推測しています。

退陣報道が過熱した7月23日、石破首相は麻生太郎氏(84)、菅義偉氏(76)、岸田文雄氏(68)といった歴代首相経験者と相次いで面会しました。その後の報道陣の取材に対し、「一部にはそのような(退陣)報道がございますが、私はそのような発言をしたことはございません」と語気を強めて否定しました。

さらにNHKのインタビューでは、「関税にきちんとめどを付け、日本の存続や繁栄につなげることをやり遂げるのが責任の取り方だと思っている」「一切の私心を持たず、国民のため、国の将来のために自分を滅してやるということだ」と述べ、自身の職務を全うすることこそが「責任を取る」ことだと主張しました。言葉の解釈によっては都合よく聞こえるかもしれませんが、石破首相に近い人物によると、「本気で職務に邁進することが『責任を取る』と同義語だと考えているフシがある」といい、読売新聞や毎日新聞は石破首相の思考を読み間違えた可能性が指摘されています。

世論の変遷と“石破降ろし”の誤算

「石破辞めるな」デモの発生や、各種世論調査の結果も石破首相の続投を後押しする形となりました。参院選直後こそ、「辞任やむなし」というムードが世間には漂っていましたが、旧安倍派を中心とする面々が声高に辞任を迫る姿を見て、国民の中には反感を覚える人も多かったようです。

その結果、毎日新聞が参院選後の7月26、27日に行った世論調査では、「辞任すべきだ」が42%で「辞任する必要はない」の33%を上回ったものの、「わからない」が24%と少なくありませんでした。野党も、今回の事態をあくまで自民党内の“主導権争い”と認識している節があり、国民民主党の玉木雄一郎代表(56)は「自民党にしっかりしてもらいたいですね。方向性・方針が決まらないということ自体が政治空白と言われかねません」と述べるにとどまっています。

永田町関係者の話によれば、“石破降ろし”はスピード勝負だったと言います。参院選当日、麻生最高顧問が「続投は認めない」と語ったと伝えられたのが合図となり、一気に押し切るしかありませんでした。しかし、読売や毎日の退陣報道によって石破首相がナーバスになり、「石破辞めるな」デモが話題になったことで、強硬派は首相に「インターバル」を与えてしまう大誤算を犯しました。このため、作戦を練り直さざるを得ない状況に陥ったのです。

混迷深まる政局の行方

石破首相のままで次期衆院選を勝てるとは思えない、というのが永田町の大方の見方ですが、かといって、強引に引きずり降ろせば、新総裁になっても支持率は上がらないだろうというジレンマを抱えています。

テレビ局の政治担当者は、「石破首相はある意味、開き直って政権運営していくだろう。決して辞任しないというわけではなく、将来的な再登板も頭の片隅に置きながら、引き際を考えているのだと思う」と分析しています。参院選後の混乱は、8月に入っても依然として続き、日本の政治情勢は不透明な状態が続くことが予想されます。石破首相の「責任の取り方」が、今後の政局にどのような影響を与えるのか、引き続き注目が集まります。


Source: FRIDAYデジタル (Yahoo!ニュース掲載)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b66a2e9807a94252cc915851c7295e70c0bbb06b