中国では、若年層の深刻な雇用危機が社会全体に影を落としています。特に、伝統的な「面子」(メンツ)を重んじる文化の中で、失業の事実を隠そうとする動きが顕著です。その象徴ともいえるのが、オフィススペースを借りて「出勤しているふり」をするサービス。料金を払ってまで“会社”へと足を運ぶこの実態は、中国の高学歴化と就職難の深刻なミスマッチを示しています。
中国の経済・社会情勢を背景に、首脳会談で政策を協議する中国の指導者
「偽装出勤サービス」の背景にある中国の「面子」文化
経済成長の減速と産業構造の変化により、中国の若者、特に高学歴層の就職は困難を極めます。「面子」を重んじる文化では、失業は個人の評価に直結し、家族からの重圧となります。この背景から生まれたのが「偽装出勤サービス」です。失業者はオフィススペースで仕事をしているふりをし、家族に失業を隠し、社会的な体面を保ちます。これは単なる一時しのぎではなく、雇用問題と社会心理の複雑な絡み合いを示唆します。
オックスフォード大学院卒「フードデリバリー配達員」の現実
かつて高学歴が安定を約束した中国で、その常識は揺らいでいます。清華、北京、オックスフォードなど4つの学位を持つエリート、ディン・ユエンジャオ氏(39歳)の事例が象徴的です。博士研究員契約終了後も職は見つからず、彼はシンガポールと中国でフードデリバリー配達員として生計を立てています。SNSで「安定した仕事で家族を養える」「悪い仕事ではない」と語る彼の姿は、中国の学歴社会における矛盾を浮き彫りにします。
中国SNSが問う「教育の真の価値」
ディン氏の境遇は中国SNSで大きな議論を呼びました。大学入試を終えた学生への「良い成績でも仕事に大きな違いはない」という彼の言葉は共感を呼ぶ一方、「教育の意味とは?」という根本的な問いを投げかけています。世界トップクラスの大学を卒業しても望まない職に就く現実は、若者たちの心に深い動揺を与え、学歴が安定を保証しないという認識を広げています。
政府発表の若年失業率とその実情
個別の事例に加え、中国政府の公式統計も雇用危機を裏付けます。ロイター通信によると、今年5月の16歳から24歳(学生を除く)の失業率は14.9%と、11カ月ぶりの低水準でした。一見改善したかに見えますが、この数値には「学生」が含まれない点や、短期・非正規雇用が含まれる可能性を考慮すると、実際の雇用環境は統計が示す以上に厳しいとの見方が専門家の間で広がっています。
中国の若年層を襲う失業の波は、経済問題だけでなく、「面子」という文化的背景や教育の価値、社会全体の安定性に関わる深刻な課題です。「出勤ふり」サービスや高学歴者が直面する厳しい現実、そして統計の裏に隠された真の状況は、中国社会が抱える矛盾を露呈しています。この雇用危機が、中国の将来にどのような影響を及ぼすのか、その動向が注目されます。
参考文献
- サウスチャイナ・モーニング・ポスト
- ロイター通信
- 中国国家統計局
- Yahoo!ニュース
- PRESIDENT Online