元タレントの中居正広氏が芸能界を引退し、彼とフジテレビの元女性アナウンサー(以下、Aさん)との間で生じたトラブルをめぐる問題は、いまだに社会の注目を集めています。特に、今年1月23日に中居氏が芸能界を去り、3月31日にフジテレビが設置した第三者委員会の調査報告書が、WHO(世界保健機関)の定義に基づきAさんに対する「業務の延長線上の性暴力」を認定したことは大きな波紋を呼びました。この一連の出来事が、JR東日本グループの人材サービス会社である「JR東日本パーソネルサービス」(以下、JEPS)によって、企業向けの人権啓発「教材」として使用され、その内容がさらなる炎上と謝罪、そしてウェブページの廃止にまで至るという異例の事態に発展しました。本記事では、この「中居・フジ問題」を教材化したJEPSの動き、その内容、そしてその後のSNSでの反発、JEPSの対応までを詳細に追跡し、背景を深掘りします。
JR東日本パーソネルサービスが「教材」として問題を取り上げた経緯
JR東日本パーソネルサービス(JEPS)は、JR東日本グループに属する人材サービス会社であり、主に人材派遣、教育、研修サービスを法人顧客に提供しています。同社は今年5月28日、法人会員向けのウェブサービス「Personnel Info Web」内で、総務部の人権啓発担当名義で「人権情報NOW『中居・フジ問題』について考察してみましょう」と題する記事を掲載しました。この記事は、中居氏をめぐるトラブルとフジテレビの対応を「稀にみる『失敗事案』」と位置づけ、企業が学ぶべき教訓として紹介するものでした。
記事が指摘した「中居・フジ問題」の核心
JEPSの記事は、フジテレビの第三者委員会による調査報告書の内容を基に、この問題を「深刻な人権侵害(性暴力)」と明確に認定。その上で、中居氏とAさんの間で2023年6月に発生したとされるトラブルの詳細については守秘義務のため触れられないとしつつも、中居氏がフジテレビにとって「有力な取引先」である一方、Aさんが「入社数年目」という立場の差があったことを指摘し、「業務の延長線上の性暴力」が認定された経緯を説明しました。
一方で、中居氏サイドが今年5月に入ってから、「性暴力」という日本語が一般的に想起させる暴力的・強制的な性行為はなかったと反論し、第三者委員会に対して認定過程における証拠の開示などを求めている点にも言及。しかし、JEPSの記事では、「第三者委員会により公表されたトラブルの前後に関する諸々の調査結果からも中居氏による卑劣な行為は明白であり、筆者としては断罪されて然るべきと考えます」と、中居氏の行為を強く非難する姿勢を示しました。
フジテレビ側の対応への厳しい批判
JEPSの記事は、フジテレビ側の対応についても厳しく批判を展開しました。具体的には、トラブルを把握しながらもAさんのケアを最優先とせず、中居氏の番組出演を継続させた港浩一元社長(73)ら当時の上層部の判断を問題視。また、Aさんが入院中にフジテレビの元編成幹部B氏が、中居氏から依頼された「見舞金」を運搬した行為が、Aさんに対する「二次加害行為」にあたると認定された点も、「愚行」として指摘しました。JEPSは、これらのフジテレビの対応を「得意先を過度に優先する姿勢」が招いた結果であるとし、企業として被害者の人権擁護を最優先に対応する必要性を強調。この事例を「他山の石」として、全ての企業が学ぶべき教訓だと提言しました。
SNSでの炎上とJR東日本パーソネルサービスの謝罪
JEPSが公開した記事は、当初は法人会員向けの限定的な公開でしたが、7月下旬に入るとX(旧Twitter)上で記事のスクリーンショットが拡散され始め、瞬く間に大きな波紋を呼びました。特に、中居氏サイドが反論しているにも関わらず、JEPSの記事が「中居氏による卑劣な行為は明白であり、筆者としては断罪されて然るべき」と断定的に記述したことに対し、中居氏のファンを中心に「ひどすぎる」「人権侵害だ」「中立公平ではない」といった強い批判の声が多数上がりました。
この広範な批判を受け、JEPSは迅速な対応を迫られました。まず7月25日には、公式ウェブサイト上で「この度、弊社の『人権情報NOW(2025年5月号)において、一部行き過ぎた表現があったことをお詫び申し上げます」と最初の謝罪を発表しました。しかし、謝罪後も批判の声は止まず、事態の沈静化には至りませんでした。
これを受けてJEPSは7月29日、さらに踏み込んだ声明を発表。先の謝罪文より詳細に、「人権を取扱っている内容にも関わらず、事実の確認を十分に行うことなく、一方に偏った断定的な主張を行った公平性に欠ける不適切な内容及び表現があり、関係者の皆様および読者の皆様にご迷惑とご不快の念を与えることになりましたこと、深くお詫び申し上げます」と述べ、改めて深く謝罪しました。さらに、同社は「本件を重く受け止め、『Personnel Info Web』を廃止するとともに、当社の編集体制の抜本的な見直しと再発防止策を講じてまいります」と表明し、問題の記事が掲載されていたウェブページ自体の廃止という、極めて異例の措置を取るに至りました。
元タレント中居正広氏の肖像写真
問題の深層と今後の展望
今回のJR東日本パーソネルサービスによる「教材」化とそれに続く炎上、そして謝罪・ページ廃止という一連の事態は、企業が社会的に影響力のある問題を扱う際のリスクと、情報発信における公平性、正確性の重要性を改めて浮き彫りにしました。人権啓発という重要な目的を持った活動であっても、その表現方法や事実確認の甘さが、かえって新たな「人権侵害」や「誹謗中傷」と受け取られかねない危険性をはらんでいることを示唆しています。
JR東日本パーソネルサービスがウェブサイトに掲載した謝罪文のスクリーンショット
中居正広氏とフジテレビをめぐる「性暴力」認定問題は、芸能界やメディア、企業倫理、そして個人の人権という多岐にわたる側面を持つ複雑な社会問題です。JR東日本パーソネルサービスが、このデリケートな問題を教材として取り上げたことは、企業の人権意識向上への意欲を示すものであったかもしれませんが、そのアプローチが世間の批判にさらされた形となりました。本誌はJEPSの担当部署に対し、発端となった記事を公開した経緯などについて問い合わせており、今後の回答とそれに続く報道が注目されます。
参考文献
- Yahoo!ニュース (Jisin): 「中居正広氏を『断罪』し炎上…JR東日本グループ会社が謝罪&ウェブページ廃止へ『性暴力問題』が“教材”化で大波紋」
https://news.yahoo.co.jp/articles/9dec5812e6042a0f18419846bbf6adf1ee509e1c