日本の医療機関倒産が過去最多:国立大学病院も赤字に直面する深刻な背景

2025年上半期、日本全国で倒産した医療機関の件数が過去最多の35件に達し、医療体制の危機が深刻化しています。この前例のない状況は、地域の医療サービス提供体制が崩壊寸前であることを示唆しています。特に病院の倒産は9件と、2007年の過去最多件数に迫るペースで推移しており、日本の医療システム全体が極めて困難な局面を迎えていると言えるでしょう。

医療機関倒産急増の背景と深刻な経営状況

医療機関の倒産が急増している主な背景には、収益性の深刻な悪化があります。近年、医療機器の費用、人件費、光熱費といった運営コストが軒並み高騰しているにもかかわらず、医療機関の主要な収入源である診療報酬は、その高騰に見合うだけの引き上げが行われていません。

医療機関の倒産件数を示すグラフを前に深刻な表情を浮かべる女性。背景には経営悪化と高騰する物価の影が見える。医療機関の倒産件数を示すグラフを前に深刻な表情を浮かべる女性。背景には経営悪化と高騰する物価の影が見える。

診療報酬は、保健医療サービスに対して支払われる報酬であり、2年に1度改定されます。2024年度の診療報酬は、報酬全体で0.12%の引き下げとなり、これが医療機関の経営を一層圧迫しています。

国立大学病院もこの経営悪化の例外ではありません。全国44の国立大学病院の経常損益は、2024年度の速報値で合わせて285億円もの赤字を計上し、過去最大の赤字額となりました。国立大学病院長会議の大鳥精司会長は、「17年間で材料費が1.7倍、医薬品が2倍になっている。このまま支援がなかったら、間違いなく潰れます」と、現在の厳しい状況に対する強い危機感を表明しています。

診療報酬の仕組みと改定率を示す図。医療機関の収入源であり、2年に一度見直されるその重要性が視覚的に示されている。診療報酬の仕組みと改定率を示す図。医療機関の収入源であり、2年に一度見直されるその重要性が視覚的に示されている。

赤字経営に陥っている病院は全体の60%を超えています。全日本病院協会の神野正博会長によると、診療報酬が上がらない主要な理由として、高齢化による国民医療費の増加が挙げられます。国は財政的な理由から診療報酬を抑制せざるを得ない状況にあり、物価高騰が続く中で、公定価格である診療報酬が据え置かれることで、多くの病院が未曾有の経営危機に直面しています。

全国の病院における赤字割合を示す円グラフ。60%を超える病院が経営難に直面している現状を明確に表している。全国の病院における赤字割合を示す円グラフ。60%を超える病院が経営難に直面している現状を明確に表している。

地域医療の現状と直面する危機

特に地域医療は、医療機関の倒産や診療休止により、極めて厳しい状況に置かれています。東京都武蔵野市にある病床数125床の吉祥寺南病院は、24時間体制で患者を受け入れる二次救急医療機関でしたが、1970年建設の建物の老朽化を理由に、2024年10月から診療を休止しました。

東京・武蔵野市にある吉祥寺南病院の外観。地域の二次救急医療を担ってきたこの病院の診療休止が、地域住民に与える影響は大きい。東京・武蔵野市にある吉祥寺南病院の外観。地域の二次救急医療を担ってきたこの病院の診療休止が、地域住民に与える影響は大きい。

この診療休止は、地元住民に大きな動揺を与えています。50代の女性は「大きい病院がなくなるのは考えられなかったので、正直驚いた」、70代の男性は「(病院がなかったら)安心していられない。僕なんか年だから、いつおかしくなるかわからない」と、地域医療の崩壊に対する深い不安を語っています。

少子化による出産数の減少に伴い、分娩を休止する病院も相次いでおり、地域における産科医療の脆弱性も深刻な問題となっています。

閉鎖された病院についてインタビューに答える地元住民。安心できる医療体制への不安と期待が言葉の端々に表れている。閉鎖された病院についてインタビューに答える地元住民。安心できる医療体制への不安と期待が言葉の端々に表れている。

迫り来る医療崩壊と今後の展望

医療機関の倒産急増と国立大学病院の過去最大赤字は、日本の医療体制が構造的な問題に直面していることを明確に示しています。物価高騰と人件費の上昇が続く一方で、診療報酬の抑制が続く限り、多くの医療機関は経営の維持が困難になるでしょう。この状況が続けば、地域医療の空白地帯が拡大し、国民が適切な医療サービスを受けられない「医療崩壊」が現実のものとなる危険性があります。

喫緊の課題として、医療機関の経営を持続可能にするための抜本的な対策が求められます。単なる財政支援に留まらず、医療提供体制全体の最適化、効率化、そして国民の健康を守るための診療報酬制度の見直しなど、多角的なアプローチが必要です。


参考文献

  • 全日本病院協会
  • 国立大学病院長会議
  • Yahoo!ニュース (記事元)