出張中の移動時間は労働時間とみなされるのか?法的判断基準と企業の注意点

2019年の「働き方改革」施行、そして2020年以降の新型コロナウイルス流行により、在宅勤務やリモートワークが一般化しました。これにより、勤務場所が多様化し、私たちの働き方はより柔軟になっています。しかしその一方で、労働時間とプライベートの境界線が曖昧になるという課題も生じています。当ウェブサイトの読者からも、「このケースの場合、どこまでが労働時間と見なされるのか?」といった労働時間に関するご質問が多数寄せられています。

本記事では、特に「移動時間」に焦点を当て、どのような時間が労働時間に該当するのか、具体的なケースを交えて社会保険労務士の視点から詳しく解説します。

働き方の多様化と労働時間の境界線

現代の働き方は、オフィス通勤だけでなく、自宅やサテライトオフィス、あるいは出張先など多岐にわたります。このような環境下で、労働時間の概念はより複雑になっています。特に、移動中に業務を行うケースや、移動自体が業務と密接に関連している場合、その時間が労働時間として扱われるかどうかの判断は、企業にとっても従業員にとっても重要な課題です。

出張時の移動時間は労働時間と見なされるのか?

一般的な企業に勤める会社員Aさんのケースを例に考えてみましょう。Aさんは通常9時から18時まで勤務しています。ある日、朝7時半に自宅を出発し、10時から17時まで名古屋で業務を行い、19時半に帰宅しました。この場合、往復の移動時間を含む12時間は労働時間とみなされるのでしょうか?

Aさんのように、職場以外の場所で業務を行う出張時において、移動時間を労働時間と判断する際には、以下の3つのポイントが重要になります。

  1. 就業規則にどのように記載されているか
  2. 出張中の1日のスケジュールが明確に会社によって定められていたか
  3. 会社から移動中に具体的な業務遂行の指示があったか

判断基準となる3つのポイント

多くの場合、企業は出張など事業場外での業務を命じる際に、就業規則に「事業場外労働に関するみなし労働時間制」といったルールを定めています。これは、労働時間の算定が困難な場合、所定労働時間、または特定の時間を働いたものとみなす制度です。

新幹線内でノートパソコンを開いて仕事をするビジネスパーソンのイメージ新幹線内でノートパソコンを開いて仕事をするビジネスパーソンのイメージ

例えば、以下のような規定が就業規則に盛り込まれていることがあります。

【就業規則の記載例】

  • 第〇条(事業場外労働)
    社員が、外勤、または出張等によって事業場外で労働する場合であって、労働時間を算定することが困難な場合は、会社が特別の指示をしない限り、通常の労働時間労働したものとみなす。

この規定のポイントは、「労働時間を算定することが困難な場合」という条件と、「会社が特別の指示をしない限り」という但し書きです。単に移動しただけであれば、原則として労働時間には当たりません。しかし、移動中に会社から特定の作業を命じられ、その遂行が義務付けられていた場合、または移動そのものが業務遂行のために不可欠なものであった場合など、個別の状況に応じて労働時間と判断される可能性があります。たとえば、新幹線での移動中に会議資料の作成を指示された場合などは、その作業時間が労働時間に含まれると解釈されるでしょう。

まとめ

出張中の移動時間が労働時間とみなされるかどうかは、その移動中に業務指示があったか、移動が業務遂行に必須であったか、そして企業の就業規則にどのような定めがあるかによって判断が分かれます。単なる移動は労働時間ではありませんが、移動中に具体的な業務を行った場合や、移動自体が業務の直接的な目的である場合は、労働時間と見なされる可能性が高まります。企業は、従業員との間の誤解を防ぎ、適切な労働時間管理を行うためにも、就業規則に明確な規定を設け、必要に応じて具体的な指示を出すことが重要です。


参考文献: