妻夫木聡の朝ドラ『あんぱん』初出演:演技が常に「新鮮」に映る理由とは?

NHK連続テレビ小説『あんぱん』でレギュラー出演を果たす妻夫木聡。本作が彼にとって初の朝ドラ出演作であるにもかかわらず、その登場シーンは視聴者に毎回、不思議なほど新鮮な印象を与えている。コラムニスト・加賀谷健は、妻夫木聡がその「メリハリ」ある演技によって、いかにしてこの新鮮さを生み出しているかを分析する。

朝ドラ初出演で放つ「新鮮」な存在感

妻夫木聡は、今田美桜が主演を務める連続テレビ小説『あんぱん』において、初登場からその存在感を際立たせている。彼の最初の登場は、戦時下を描いた第10週第50回。主人公・若松のぶ(今田美桜)と後に夫婦となる柳井嵩(北村匠海)が二等兵として配属された部隊で、上等兵・八木信之介(妻夫木聡)として姿を現した。

薄暗い廊下の奥から軍靴をカツカツと鳴らしながら現れる八木は、おどおどする嵩の前に立つやいなや顔を近づけ、「気を引き締めろ!」と一喝。そして踵を返し、再び廊下の奥へと戻っていく。これまでの『ローレライ』(2005年)など戦争映画への出演歴はあるものの、妻夫木が「鬼軍曹」的なキャラクターを演じること自体が新鮮に映る。この初登場シーンで、彼は「軍靴カツカツ往復」というわずかな描写だけで、そのキャラクター設定を瞬時に視聴者に示す手際の良さを見せつけた。

朝ドラ『あんぱん』で上等兵・八木信之介役を演じる妻夫木聡朝ドラ『あんぱん』で上等兵・八木信之介役を演じる妻夫木聡

「メリハリ」ある演技が醸し出す役柄の奥行き

妻夫木聡の演技は、役柄に説得力と深みを与えている。八木信之介という役には、ナチュラルな渋みが自然とビジュアルに加味され、程よい威厳が漂う。しかし、単なる鬼軍曹に終わらないのが彼の真骨頂だ。実は心底温かい心根の持ち主であり、軍隊では嵩が無事に帰還できるよう間接的にアシストする一面も持っている。

彼はあからさまな「アメとムチ」を使うわけではないが、妻夫木は「メリハリ」を利かせた演技で八木役の多面的な性格を見事に表現している。この「メリハリ」こそが、彼の登場が毎回新鮮に感じられる所以だ。戦後を描く第16週第76回での再登場でも、その演技の「メリハリ」が役柄の新鮮味を一層際立たせる。高知新報に入社したのぶと嵩が取材で上京し、街に溢れる孤児たちにのぶがカメラを向ける場面。一人の孤児が隙をついてカメラを奪い、路地を追いかけた先に、再び八木信之介の姿があった。

妻夫木聡は、表面的なキャラクター設定にとどまらず、その内面にある複雑さや人間味を巧みに演じ分けることで、視聴者に常に新たな発見を提供している。彼の緻密な役作りと表現力が、『あんぱん』における八木信之介というキャラクターに計り知れない奥行きと新鮮な魅力を与えているのである。

参考文献